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第44話 スパルタの先に得るもの

「ほら、セシリア嬢もひとつ手にしてみろ」


 俺はセシリアにも出来たばかりの魔道具の箱を指して指示を出す。すると彼女は俺の言葉に恐る恐るだが、机に置かれた黒い箱へと手を伸ばす。


「そんなに怖がらなくても爆発したりはしないぞ」


「ほ、本当ですよね? わたくしが魔法を込めた瞬間にドカンとかいったりしないですか?」


「ははは。魔法を込めただけでは勝手に発動しないから大丈夫だ。それより今から教える魔法を今日中に覚えてもらうから頑張るんだぞ」


「え? 今から新しい魔法を覚えるのですか? しかも今日中!? そんなの……」


「無理とは言わないよな?」


「……はい。死ぬ気でがんばります」


 いつもの無茶振りだったが逆らうだけ時間の無駄だと理解しているセシリアは諦めた表情で頷いたのだった。


「今から覚えてもらう魔法は『蔓拘束(バインド)』という魔法だ。簡単に説明するとこの魔法を付与した魔道具の発動範囲にターゲットが来ると周りにある蔓系の植物の成長が著しく急成長してターゲットを絡め取るんだ。蔓は魔法で強化されているから人の力程度で引っ張ろうがナイフで切ろうとしようが簡単には解けたりはしない。つまり……」


「侵入者の足止めには最適ということですね」


「そういうことだ。どんなものか一度体験してみるか?」


「え? でも蔓系の植物なんてここにはありませんよね?」


「そんなものはどうにでもなるさ」


 俺はセシリアにそう告げると魔法鞄から鉢植えにした蔓系植物を二つ取り出して床に一メートル間隔で置いた。


「こ、こんなものまで入れてあるのですね」


「何事も準備が大切だからな。今からこの二つに魔法を付与するからその間を走り抜けてみろ。蔓拘束(バインド)


 俺が魔法を付与すると蔓植物は一瞬だけ光って元に戻る。俺が合図をすると覚悟を決めたセシリアが走り出す。その気配を感じ取ったのか植物はその蔓を一気に伸ばしてセシリアの足に絡みつく。


「きゃあ!」


 左右から一気に足を絡め取られたセシリアが前に転びそうになるが、蔓はさらに成長して一気にセシリアを宙へと持ち上げたのだった。


 ぷらん


 足を絡み取られて逆さ吊りにされたセシリアは顔を真っ赤にしてスカートを押さえている。


「早く降ろしてください!」


 俺がその効果を説明しようと口を開く前にセシリアの悲鳴に近い声が部屋中に響き、俺は慌てて魔法を解除して彼女を降ろしてやる。


「ど、どうした? 怪我でもしたか?」


 気をつけていたが、自動で動く魔法だ。予想以上に足をきつく締めつけていたのかもしれないと思い、俺は慌ててセシリアの足を治療しようと彼女の傍にしゃがみ込むと、いきなりグーパンチが俺の顔面に飛んで来た。


「こ、こうなるのなら最初に説明してくださいよ!」


「いや、だからそれを体験して……」


 警戒心バリバリの猫のようにフーという威嚇音が聞こえてきそうなセシリアに俺は『また失敗したかな?』と頭を掻いて反省する。


「すまなかった。こういったものは実際に体験するのが理解も早いと思ってしたことなんだ。セシリアがそこまで驚くとは思っていなかった」


 俺が素直に謝るとセシリアも少し落ち着いたのか、大きく深呼吸をしてから立ち上がり、俺に言った。


「もう良いですから早く魔法を教えてください。どちらにしても今日中に覚えなきゃいけないんでしょ?」


「あ、ああ。そうだな、じゃあ簡単なやつから教えていくぞ」


 俺は成長してしまった植物を魔法鞄に収納し、新たに出した鉢植えを床に置いてセシリアに魔法を教えていく。そしてすっかり夜も更けた頃、セシリアは必要な蔓魔法を習得したのだった。いや、本当にセシリアは天才かもしれない。


◇◇◇


「よし、準備は整った。あとはこれを仕掛けて奴らが来るのを待つだけだ」


「本当に来ますかね?」


「十中八九は来るだろうな。しかも非合法な連中を連れて」


 相手に手紙を渡してから準備を整える時間と移動してくる時間を計算すると今夜か明日の夜が怪しいと考えている。街の領民に被害が出るのは困るから出来れば領界である森の中で決着をつけたいところだ。


「いいか。奴らは話し合いに来たわけじゃない。地区の長である侯爵家に今回の不始末を知られたくない一心で力づくで三男を取り戻しに来ているだけだ。だが本当に貴族家の当主が来ていた場合、誤って大怪我をさせると後が面倒だから気をつけろよ」


「つまり、貴族家当主以外はぶっ飛ばしても問題ないのですね?」


「確かにそうだが、俺たちは相手の顔を知らないからな。豪華な服を着ている奴は攻撃しないほうがいいかもしれんぞ」


「三男の態度も好きになれなかったけど、その尻拭いをする親が非合法なやり方で収めようとするなど言語道断です。二度と北地区には来られないようにして差し上げましょう」


「いいぞ、その意気だ。今夜が楽しみになってきた」


 そうつぶやく俺の表情はきっと、どちらが悪党なのか間違えそうなほどの黒い笑みをしていたと思う。

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