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第29話 魔獣肉の保存食

「――そろそろ出来たみたいだな」


 セシリアやジンと今後のことを話している間に保存食の試作品が完成する時間となる。俺は椅子から立ち上がると魔道具を手にして動作が終了していることを確認した。


「開けてみよう」


「上手くいっていると良いですね」


 セシリアが不安そうな表情で俺の手にある魔道具を見つめる。少し遠目にジンも同じく固唾を呑んで見守っていた。


「そう緊張しなくても大丈夫だ。もし上手く出来ていなければ再度調整すればいいだけだ。万が一にも開けたとたんに爆発したりはしないから安心しろ。まあ、干からびていたり真っ黒だったりはあるかもしれないがな」


 俺は笑みを浮かべながら魔道具の蓋を外して中身を確認する。中を見ると薄切りベーコンのようなペラペラの乾燥干し肉に見えるものが何枚も重なって収まっていた。


「ふむ。見た目には問題なさそうだが、後は味と実際の効果だな」


「成功しているか失敗しているかは食べてみないと分からないのですよね?」


 横から覗き込むようにしながらセシリアが俺に問いかける。やはり、魔力量が増える可能性があると聞けば興味が湧くのも当たり前のことかもしれない。


「食べてみるか?」


「グ、グラン先生。お先にどうぞ」


 やはり、興味は強いものの初めて見る魔道具での加工品に及び腰となっているようだ。ここは俺が先に手本を見せるべきだろう。


「ははは。構わないぞ。どーれ」


 俺は箱の中から薄切りになっている肉を一枚取り出しておもむろに口に放り込んだ。多少味が変だったとしても問題ない。


「おっ!? こいつは……」


「ど、どうでしたか?」


「ああ。少なくとも味は合格だな。見た目も悪くはないし、これで効果が見られれば成功と言って良いだろう」


「じゃ、じゃあ私も試させて頂きますね」


 俺が味の評価を下したことでセシリアも恐る恐るではあるが肉に手を伸ばして口に運ぶ。


「はむっ」


 セシリアは目を瞑ったまま肉を口に運ぶと、数回咀嚼して飲み込むと、パッと目を開き叫んだ。


「美味しいです! 見た目は干し肉のようなのに噛むとしっかりと水分が感じられて調味料の味も丁度いい。これが保存食なんて信じられません」


「私にも食べさせて頂けませんかな?」


 セシリアの言葉にジンも好奇心を抑えられないようで自分にも分けて欲しいという。拒否をする理由もないので俺は快く了承して肉を彼に渡した。


「これは……。確かに乾燥させただけの干し肉とは全く違うものですね。これで何日くらい保存が効くのかによるでしょうが、この品質ならば十分に需要はあるかと思います」


 ジンからの思ったよりも良い評価に俺は安堵の息を吐き、次の検証に入ることにした。


「味と食感は合格のようだから次は本当に魔力回復が感じられるかだな」


 魔力量に数値でも見えれば楽なんだが、そういうわけにもいかない。こればかりは鑑定スキルを使っても見えないものだからだ。


「とりあえずセシリアには毎日最低一回は継続して食べてもらうようにして、今回はすぐに効果が分かるように俺の魔法従魔に食わせてみることにしようか。俺の魔法従魔ならば魔力の回復量は創造主である俺には分かるからな」


『なんか用か? くだらない用事だったら速攻で帰るからな』


 俺が影からハビルを呼び出すと面倒くさいとばかりにハビルは愚痴を言う口を開く。普通は主人に対して文句を言う従魔なんて居ないと思うのだが、どうしたことかハビルはその常識から外れているようだ。


「ちょっと魔力を貰うぞ」


 俺はハビルのボヤキを無視して身体に触れると強制的に魔力を吸い上げる。


『のわっ!? な、なにするんだ!?』


「何って実験するために魔力を強制的に減らしているだけだよ。軽口を叩いてないでさっさと渡せ」


 ハビルは魔力を吸い取られるたびに真っ白な身体がだんだんと青く変わっていく。

「あの……。そんなに魔力を吸い取っても大丈夫なものなんですか?」


 あまりの急激なハビルの色変化に、セシリアが心配そうな表情で尋ねてくる。


「ん? ああ、大したことはないぞ。もしも枯渇したらもう一度強制的に注入してやれば戻るから」


「そんな、空気じゃないんですから簡単に抜いたり入れたりするのはどうかと思いますよ」


『おおっ! 我が主は良いことを言う。それに対して我が創造主の酷いことよ』


 丸いフォルムのハビルが魔力を急激に抜かれたせいか、ほっそりとスリムになって文句を言う。まあ、だからと言って俺に対して攻撃が出来るわけではないが。


「よし、このくらいで良いだろう。ハビルこの肉を食ってみろ」


 ハビルの最大魔力の半分程度抜いた俺は試作品の肉をハビルの前に置いて食べるように指示をする。


『今度は何だ? 俺様は魔力を食わせてくれればそれで良い。人間の食料を食べても魔力が回復することはないぞ?』


「いいから食ってみろって。最初から実験だって言っているだろうが」


『ちっ、わかったよ。食えばいいんだろ?』


 ハビルは悪態をつきながらも俺の指示に従い、準備した肉を一呑みする。


『おっ!? なんだこいつは。魔力が戻ってくるじゃねぇか』


 肉を食べたハビルの身体の色が青から白へと変化していくのが見える。コイツは誰の目に見ても変化を感じられるいい見本になったようだ。


「ハビル鳥さんの身体が戻っていきましたね。これは魔力が回復していると見て良いのでしょうか?」


「ああ。無事に成功したようだ。これならばギルドに登録して販売するのも現実味のある話だ」


「本当に厄介者の魔獣の肉が価値のある保存食になるなんて、この目で見るまで信じられませんでした。全てグラン殿のおかげです。ありがとうございました」


 実験結果を目の当たりにしたジンが深く頭を下げて礼を言う。セシリアもモフモフに戻ったハビルをわしゃわしゃとモフりながら微笑んでいたのだった。

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