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第24話 作戦会議

「――すげー! こんなデカい魔角猪を一撃で仕留めるなんてお姉ちゃんも凄い魔導士だったんだ」


 セシリアが放った魔法の音に反応して隠れていたガイが顔を出すと倒れている魔角猪を見つけて叫びながら走り寄って来た。


「そうだぞ。このお姉ちゃんは実は男爵様の娘でご令嬢だが、凄い魔導士になれる素質を持っているんだ。彼女がもっと成長すればこういった時にでも助けてもらえるだろう」


 ガイはこの村の村長の孫だ。領主の娘であるセシリアの印象を良くしておくのは領地経営でプラスになるのは間違いない。


「へー、そうなんだね。お姉ちゃん頑張ってね」


 ガイは俺の説明を聞いてもあまり深く考えていないようだったが、目の前の結果にセシリアを称えたのだった。


「――さて、報告があったのは大物が三頭だったはずだ。おそらくだが、コイツがその一頭だと思う。とすると残りは二頭。ここで俺たちが今から取る作戦は三つある」


 討伐した魔角猪をまたもや魔法鞄に収納した俺は次なる作戦会議を始める。


「三つも案があるのですか?」


 セシリアは俺が魔角猪を収納したことには触れず、作戦の提案を聞く態度を見せた。なかなか適応力があって嬉しい限りだ。いちいち驚かれるのは面倒だからな。


「一つ目はこのまま畑で待機だ。壊された柵から別の魔角猪が侵入を試みるかもしれないからな。二つ目は明るくなってきたので森に探索範囲を広げて奴らのねぐらを探す。俺の探索魔法があればある程度の範囲に絞れるかもしれない」


「ここで待つと探しに行く……。あとひとつは何でしょうか?」


 セシリアが期待を込めて最後の案を聞いてくる。


「――帰って寝ることだ」


「え?」


「奴らは夜明けの薄暗い時間を好んでいるのは分かっているんだ。今日はもう来ないかもしれないからな。帰って寝るのも悪くはないと思うぞ」


 もちろんだが、三つ目の案は冗談で言っている。奴らに仲間意識があるかは不明だが、餌場として認識している場所に向かった一頭が帰らないとなると様子を見に来る可能性は十分にある。これはセシリアが正確に状況判断を出来るかのテストだ。


「さて、どうする? この討伐依頼はセシリア嬢が主で受けたものだ。どうするかの判断は任せるぞ」


 実際は男爵が俺に討伐を依頼してセシリアを同行させるといった旨を話していたが、俺はあくまでサポートの範囲を超える依頼は受けるつもりはない。今回も依頼はあくまでセシリアが領主家の代表として行動している体にするつもりだ。


「――森に入りましょう。今がチャンスなのだと思います」


 じっと目を閉じて考えをまとめたセシリアは静かにそう告げた。いい判断だ。迷っている感じもない。俺はうなずくとガイの前に片膝を着き目線を合わせるとこれからのことを説明した。


「ガイは先に戻って村長に事の成り行きを説明してくれるか? ここであった事と俺たちが森に残っている魔獣の探索に向かうということを」


「うん、わかった。気を付けてね」


 ガイは素直に頷いて壊された柵の間から中に入ると村に向けて走り出したのだった。


「さてと、さっさと片付けてエールをたらふく飲ませてもらうとするか」


 立ち上がった俺は大きく伸びをしてコキコキと首を鳴らすとセシリアに魔法を一つかけてやる。


「身体強化の魔法だ。今回は特に足を重点的に強化してある。まだ、完全に日が昇っていない間が勝負だろうからな。広い森を走り回るなら必須となる魔法だ」


 俺の強化魔法を受けてセシリアの足が淡く光る。


「凄いです。足がものすごく軽く感じます。これならばずっと走っていられる気がします」


「さあ、範囲探索魔法を展開するぞ。見つけたらすぐに走り出すから頑張って付いてくるように。もちろんハビルも随行させるから急な強襲を心配する必要はないぞ」


『主の護衛は任せておけ。かすり傷さえつけさせはしないぞ』


 セシリアの頭上をふわふわと漂うハビルが自信満々でそう宣言する。俺が生み出した魔法従魔だが、どうしてこんな俺様従魔になったのだろうか。俺は苦笑いをしながらも探索魔法を発動する。


「――広域探索魔法」


 森側に薄く引き伸ばすように魔力の波を広げていくと、魔獣の反応が複数ある箇所を発見する。魔力の大きさからすると、恐らくだが探していた魔獣の可能性が高いだろう。


「見つけた。行くぞ!」


 俺は短くそう告げると魔力反応のあった方角へ一直線に走り出す。その後ろからセシリアが必死に走ってくるのが感じられた。


「なかなか頑張っているようだな。ハビルも居ることだし、俺は先に状況の確認をしておくとしよう」


 走りながら俺はそう呟くとさらに加速するのだった。


「さて、本命かな?」


 一足先に現場に辿り着いた俺は木陰からそっと魔力反応のあった場所を覗き込む。そこは小さいながらも綺麗な滝壺のある場所で澄んだ水が野生動物たちの水飲み場となっていた。俺は広範囲の探索魔法を解除し、目の前にある範囲の詳細探索へと切り替える。


「ああ、やはり間違いないようだ。この辺りを縄張りとしている群れだな」


 探索魔法で大方の分析を終えた頃、ようやくセシリアがハビルと共に俺の傍にやって来た。


「おお。思ったよりも早く辿り着いたな。感心。感心」


「グラン先生、早すぎますよ。せっかく強化魔法をかけてもらって一緒に走れると思っていたのに、どんどん先に行ってしまってすぐに見えなくなっちゃうんですから。ハビル鳥さんが居たから見失っても辿り着けましたけど、そうじゃなかったら迷子になっていましたよ」


 ぜいぜいと荒い息を吐きながらセシリアが抗議の意を唱える。褒めてやったのに何が不満なのだろうか?


「まあ、とりあえずこれでも飲んで落ち着け。少なくとも大物が二頭に小物が十頭は居るから良い練習になること間違いなしだぞ」


「うへぇ。それだけの数、どうやったら相手に出来ると思っているんですか?」


 俺から果実水の入った水筒を受け取りながら不満な表情をするセシリアの顔があった。

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