第3章(3)
彼女の体からは、何者をも拒絶する雰囲気が漂う。
これ以上は、無理か。
「…帰るぞ、市村。」
「はい。」
俺達は、実家を出た。
帰る車の中の重い沈黙が耐えきれず、俺は彼女に話し掛ける。
「お前の小太刀の腕、なかなかのものだった。」
「ありがとうございます。」
「しかし、驚いたぞ。父を相手に、いきなり真剣で挑むとは…。」
「斉藤さんとは、真剣でしか手合わせして頂いた事が無いんです。」
なる程、それが普通の事だったという事か。
「その…新撰組での父は、どういう人物だった?」
「…強かったですよ。とても。抜刀術では、沖田さんも適いませんでした。新月の闇を切り裂く様な…そんな剣でした。お父様から、お聞きにはならないのですか?」
「あの通り寡黙な人でな…あの頃の事は、特に何も話さない。今日程雄弁な父を見たのは、初めてかもしれん。」
「昔から寡黙な方でしたから…。真面目で、努力家で誰よりも忠実で…でも、優しくて面倒味が良い方でしたよ。」
「父がか!?」
「えぇ、いつもさり気なく気を配る方で、斉藤さんには隠し事出来なくて。」
母の言葉が蘇る。
父は、昔から彼女を見守っていたのだろうか?
「…よく、似ていらっしゃいます。藤田さんに…。」
「…。」
運転を理由に前を向き、顔が紅潮するのを隠す。
「もう直ぐ、着くぞ。」
街が茜色に染まるのが美しいと、素直に思った。