表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
桜の刻   作者: Shellie May
3/19

第1章 (2)


車に乗り込んだ俺達は、一路岩崎邸を目指す。

藤田は助手席に移り、後部座席には俺と疲れて寝てしまった清志、そして清志に膝枕をし、その髪を撫でる市村桜が残された。

「銃を…扱った事があるのか?」

「…昔。」

顔を上げず、小さな声で言葉少なに答える。

「何故か聞いてもいいか?」

「…絶対に守りたいものを、二度と失わない為に…。」

消え入りそうな声で呟く彼女の手に、ポタリと血が滴る。

気が付くと、彼女のこめかみからはかなりの血が流れ、服の襟や胸は血で濡れていた。

「これで、傷を押さえてろ。」

俺は自分のハンカチを彼女に渡す。

「えっ、でも…」

「いいから、お前のは、そいつに使ったんだろうが。」

彼女のハンカチは、擦りむいた清志の足に巻いてある。

「すみません、お借りします。」

そう言うと、今度は素直に受け取り傷口に当てる。

みるみる赤いシミが広がるところを見ると、まだ出血は続いている様だ。

「屋敷に着くにはしばらく掛かる。お前も休んでおけ。」

何も言わずに頷いた彼女は、しばらくすると静かな寝息をたてはじめた。

「もう少し、優しい物言いが出来ないもんかねぇ?」

溜め息まじりに真吾がごちる。

「うるせぇ…。」

そう言うと、俺は不安定な彼女の体を支えるために手をまわして肩を抱いた。

「それにしても、驚きましたね。」

「全くだ。見掛けによらないと言うか、普通の嬢ちゃんじゃ無いのは確かだわな。」

前の二人も、彼女が気に入った様だ。

見掛けよりもずっと苦労してきたんだろう。

この小さな肩に、一体何を背負って来たのかが、少し気になった。



岩崎邸に到着した時、車の音を聞きつけ家の者が大勢玄関先に集まった。

子供の無事を喜び、金が無事な事にも大喜びだった。

岩崎氏は俺の手を握り締め

「本当に良くやってくれました!御礼は、また後日ということで…」

と言うと、そそくさと邸の中に入ってしまう。

「ちょっと待ってくれよ、この子は怪我をしちまってるんだ。おいっ!」

そういう真吾の言葉も無視され、玄関には誰も居なくなってしまった。

「なんだ、ありゃ?」

遠慮がちに俺達の後ろに立っていた彼女は、何も気にならない様ににっこり笑うと、

「本日は、坊ちゃまをお助け頂き、本当にありがとうございました。それでは、私は失礼致します。」

と、俺達に向かって一礼して屋敷に戻る。

「おい!お前!」

俺は、その背中に声を掛けた。

「お前、俺達の所に来る気はないか?」

彼女はゆっくりと振り返り、口元をほころばせて答える。

「…考えておきます。」





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ