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第5話 決意 ―アンジュの憂鬱、そして…―

第5話

決意 ―アンジュの憂鬱、そして…―

――モディアス王国・戦艦内格納庫――

 戦闘終了して帰還してから、すでに十分以上が経っている。

 だが格納庫の空気は、いまだ張り詰めたままだった。

 薄暗い空間に揺れる整備灯。

 巨大な機体〈シルヴィアンジュ〉のコクピットに座ったまま、アンジュ・ラストウォールは動けずにいた。

 敵は撤退した。

 こちらの被害は軽微。

 戦術的には勝利と言っていい。

 それでも――胸の奥のざわめきが消えない。

(……匠は、間違いなく“創造主”としては一級品)

 アンジュは、先程の匠の戦闘を思い返していた。

 あの異常なまでの反応速度。

 操縦者の意志を先読みするかのような挙動。

 設計段階から常識を逸脱しているとしか思えない完成度。

 創る才能だけなら、王国随一どころか――歴史級だ。

(でも……)

 脳裏に蘇るのは、戦闘中の匠の横顔。

 必死に操縦桿を握り、歯を食いしばり、視界いっぱいに広がる爆炎に目を見開いていた姿。

(実戦は、ほぼ素人)

 判断が遅い。

 視野が狭まる。

 回避に精一杯で、戦場全体を俯瞰できていない。

(カイザーの性能が、匠を生かしてるだけ……)

 アンジュは拳を強く握りしめた。

(このままじゃ――)

 喉の奥が、きゅっと締めつけられる。

(あいつ……死ぬ)

 戦場は、才能に優しくない。

 創造主であろうと、英雄であろうと、死ぬ時はあっけない。

 数秒の沈黙。

 そして――

「ぬわぁぁぁっ‼ 何を一人で沈んでんのよ、私ぃっ‼」

 勢いよく立ち上がる。

「よしっ、決めたっ‼」

 コクピットから飛び降り、迷いのない足取りで格納庫を後にする。

(守るだけじゃダメ)

(導くだけでも足りない)

(“生き残らせる”ために――私がやる)

 その瞳に、もう迷いはなかった。

――戦艦内・ラボ――

 匠は、カイザーを通してジンクスと通信していた。

「そうか……直ぐ様、撤退したのか」

 低く呟いたのは、通信越しのジンクス・ハーティスだ。

「何が目的だったんだろう?」

 匠が首を傾げる。

「決まってる。〈D-カイザー〉とシルヴィアンジュの“データ取り”だ」

 即答だった。

「匠。実戦に出て、違和感はなかったか?」

「違和感……敵のネンドール、妙に無機質だった気がする」

「ちょい待ち」

 ジンクスの声がわずかに鋭くなる。

「敵のアレは『ネンドール』じゃねぇ。――『デクノイド』だ」

「デクノイド?」

「ギギの機体以外、全部“無人機”だ」

「……えっ⁉」

 匠は目を見開いた。

「じゃあ、なんで……ギギの機体と、あの巨大機体が、こっちに似てるんだ?」

「どこぞの誰かが、ネンドールの基礎データを横流ししたってことだ」

「スパイが、いるってこと?」

「ああ。その可能性は高ぇな」

 重い沈黙が落ちる。

「……そういえば」

 匠が思い出したように口を開く。

「“ジャワディーには気を付けろ”って……やっぱり、あの人が?」

「確証はねぇ」

 ジンクスは一瞬、言葉を区切った。

「だがな。俺様が出撃前にヤツに肩を叩かれた瞬間――」

「瞬間?」

「ラボで何か物色してる映像が、脳裏に流れ込んできた」

「それって……」

「サイコメトリーって能力らしい」

「……凄すぎない?」

「この世界に来てから、精度が跳ね上がってやがる」

 匠は小さく息を吐く。

「ねぇヴレイヴァーで、元の世界には戻れないの?」

「何度も試した。反応なしだ」

「今は……カイザーとヴレイヴァーを介して話せるだけ、か」

「ま、そういうこった」

 短い沈黙の後、ジンクスが軽く笑う。

「さてと。明日、俺様も“出社”とやらをしなくちゃな」

「えぇっ⁉ 会社行くの⁉」

「いつまでも部屋に籠もってるわけにもいかねぇだろ」

「だ、大丈夫かな……」

「安心しろ。スマホ触った瞬間、お前の情報は全部流れ込んできた」

「それもサイコメトリー?」

「フッ、便利だろ?」

 そして、少しだけ声音が低くなる。

「……まあ、兎にも角にも、死ぬんじゃねぇ

ぞ」

 通信が、途切れた。

 静まり返るラボ。

「……死ぬな、か」

 匠は自分の手を見つめる。

 まだ、わずかに震えている。

「俺も……ジンクスやアンジュみたいに、戦え

れば……」

 目を閉じ集中、そして手を前へ伸ばした。

 ――もにゅ。

(……もにゅ?)

 ――もにゅにゅ。

「…………⁉」

 恐る恐る目を開く。

 目の前には、顔を真っ赤にして全身を震わせるアンジュ。

「……あ~んたねぇぇぇぇっ‼ どこ触ってんのよっ‼」

「え? え? ち、違っ――」

 バチィィン‼

 乾いた音がラボに響き渡る。

 床に転がりながら、匠は天井を見上げた。

(……生き残るって、本当に大変だ……)

 その横で、アンジュは荒い息を整える。

(絶対に――)

 拳を握る。

(あんたを、死なせない)

 戦場は甘くない。

 裏切りも、陰謀も、そして死もある。

 だが――

 仲間がいる。

 守るべきものがある。

 二人はそれぞれの決意を胸に、静かに次の戦いへと歩み始めていた。

――つづく――

第5話をお読みいただき、ありがとうございます。

 今回は戦闘回の余韻と、“覚悟”を描く回でした。

 ・匠の未熟さ

 ・アンジュの危機感

 ・敵の目的は「殲滅」ではなく「測定」

 ・そして王国内に潜むスパイの可能性

 物語の水面下で、いくつもの火種が同時に動き始めています。

 アンジュは守ると決めました。

 ジンクスは死ぬなと言いました。

 では匠は、どう変わるのか。

 創造主は、戦場で何を選ぶのか。

 次回から少しずつ、関係性と陰謀が絡み合っていきます。

 ブックマーク・評価・感想などいただけると、執筆の大きな励みになります。

 それではまた、次話で。

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