第4話 初陣 ―創造主は戦場に立つ―
第4話
初陣 ―創造主は戦場に立つ―
――モディアス王国宙域――
闇に沈む宙域に、無数の光が瞬いた。
整然と隊列を組むクライガスト王国の敵機部隊。
それは無秩序な侵攻ではない。
明確な戦術思想に基づいて構築された、完成された“戦線”だった。
「……来た!」
〈D-カイザー〉の操縦席で、積村匠は深く息を吸い込む。
胸が苦しい。
喉が渇く。
手のひらが汗でじっとりと濡れている。
それでも――操縦桿に指をかけた瞬間。
背筋を撫でるような感覚が走った。
(……動く)
視界の端に、機体情報が高速で流れる。
だが、それ以上に――もっと直接的な“感覚”があった。
(“こう動け”って、機体のほうから伝わってくる)
思考よりも先に、身体が反応する。
「ボサッとしてないで! 右、来るわよっ‼」
アンジュ・ラストウォールの鋭い声が通信を震わせた。
「――りょ、了解っ‼」
反射的に操縦桿を倒す。
〈D-カイザー〉は常識外の角度で急旋回し、宙を滑る。
敵機のビームが、紙一重で背後をかすめた。
「……!」
「……避け、られた?」
一番驚いているのは、匠自身だった。
(不思議だ……。
“組み上げた時のイメージ”のまま、動いてる)
関節角度。
推進剤の噴射タイミング。
重心移動。
すべてが、頭の中の設計図どおりに連動している。
敵機が一斉に間合いを詰めてくる。
「だったら……!」
匠は半ば衝動のまま叫んだ。
「脚部、推力全開! 関節ロック、解除‼」
〈D-カイザー〉は弾かれたように加速し、敵の懐へ滑り込む。
「い、行けぇぇっ‼」
近接ブレードが閃光を描く。
一閃。
敵機体が、音もなく両断された。
「……や、やった……?」
真っ二つになった残骸が、ゆっくりと宙に漂う。
「初陣にしては、上出来ね」
アンジュの声が通信越しに届いた。
張り詰めていた胸が、わずかに緩む。
――だが、その瞬間。
宙域全体を押し潰すような“圧”が、唐突に満ちた。
「……っ⁉」
巨大な影が急接近する。
これまでの量産機とは明らかに違う、異様な存在感。
合理性よりも威圧と殺意を優先した、禍々しい設計。
振り下ろされる大鎌。
二機の間を、無慈悲に引き裂く一撃。
「う、うわっ‼」
衝撃波だけで〈D-カイザー〉が弾き飛ばされる。
「匠っ! 体勢を立て直して‼」
「そ、そう言われても……! あんなの、避けるだけで精一杯だって‼」
回避に集中するあまり、視界が極端に狭まる。
警告音が鳴り止まない。
(ダメだ……。
目の前しか見えてない……!)
巨大ネンドールが再び鎌を振るう。
アンジュが歯を食いしばる。
(素人なら、当然……。
だったら――私が!)
「こうなったら……っ‼」
〈シルヴィアンジュ〉の双剣が、まばゆい光を纏う。
エネルギーを一点に収束。
一直線に、巨大ネンドールへ突進する。
――その瞬間。
「……⁉」
巨大ネンドールの動きが、唐突に停止した。
「なに……!?」
アンジュの声が揺れる。
直後、不快な笑い声が通信に割り込んだ。
『よう! 生意気な姉ちゃんと、新型ぁ!』
「……ッ‼」
「クソガキ……ギギっ‼」
モニターに映ったのは、歪んだ笑みを浮かべる少年。
クライガスト王国の操縦者、ギギ。
『今回はさぁ、この機体の性能を試しに来ただけなんだよ』
巨大ネンドールが、ゆっくりと鎌を肩に担ぐ。
『次はガッツリ相手してやるからさぁ? ヒャヒャ!』
『兄貴、データは取れたぁ?』
その背後。
タブレットを操作する男が、静かに応じる。
「面白いねぇ……あの新型」
指先が走るたび、画面が淡く光る。
「……分析終了。
うん、十分だ。いいデータが取れた」
ピッ、とタブレットが閉じられる。
匠の背筋が凍った。
(……分析?
戦ってたんじゃなくて、“測られてた”……?)
『今日はここまでにしとくよ』
ギギが軽く手を振る。
『また遊ぼうぜぇ。生意気姉ちゃんと……新 型』
次の瞬間。
クライガスト軍は一斉に戦線を離脱した。
残されたのは、静まり返った宙域と、漂う残骸だけ。
「……逃げ、た?」
アンジュが悔しそうに唇を噛む。
「……違う」
匠は、ゆっくりと呟いた。
「“試された”んだ……俺たち」
操縦桿を握る手が、小刻みに震えている。
恐怖。
興奮。
そして、確かな実感。
「……これが……この“世界”の戦い……」
初陣。
それは決着ではなかった。
勝利でも、敗北でもない。
だが――
確かにこの日。
積村匠は“戦場”に出た。
創った機体で、戦場に立ち、刃を振るった。
それはもう、傍観者ではないという証。
これから始まるのは、“創造主”としての戦い。
設計図の上では終わらない。
命と命が削り合う、現実の戦場。
そしてその戦いが――
匠自身の想像をはるかに超えた、壮絶なものになることを。
この時の彼は、まだ知らない。
――つづく――




