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第3話 2人の創造主 (ダブル・クリエイター)

第3話

二人の創造主ダブル・クリエイター

――モディアス王国・戦艦ラボ――

 金属と魔導回路の匂いが混じる空気の中、積村匠は自分の両手を、まるで他人のもののように見つめていた。

「……俺が、ネンドールを“直した”…?」

 作業台の中央に鎮座するのは、分解と再構築を経たネンドール。

 アンジュ・ラストウォールの愛機――〈シルヴィアンジュ〉。

 だがそれは、もはや“修理”の域を超えていた。

 関節構造はより合理的に組み替えられ、装甲同士の噛み合わせは再定義されている。

 可動域は明らかに拡張され、機体全体がまるで呼吸しているかのような滑らかさを帯びていた。

「……なんだよ、これ」

 自分の手で作業したはずなのに、まるで天才設計士の仕事を見せられているような感覚。

 だが同時に――

(分かる。

 どう組めば、どう動くかが……最初から見えてた)

 まるで完成図が、頭の中に直接書き込まれていたかのように。

「匠っ‼」

 甲高い声とともに、アンジュがラボへ飛び込んできた。

「さっきの戦闘……あれ、あたしの機体じゃないみたいだった」

 頬を紅潮させ、興奮と戸惑いをないまぜにした瞳で匠を見る。

 匠は後頭部を掻き、困ったように笑った。

「……ごめん。無我夢中でさ」

「でも……」

 アンジュは静かに〈シルヴィアンジュ〉を見上げる。

「強くなったのは、間違いないわ」

 その言葉は、素直だった。

 その時。

「……匠様……」

 柔らかな声に振り向くと、ラボの入口にジュリア・ハーティスが立っていた。

 王族の気品を宿した少女の瞳は、わずかに揺れている。

「兄上は……ジンクス兄上は、いったい……?」

 一瞬、匠の喉が詰まる。

 真実を知るのは、この場で自分だけだ。

「……お、俺にも分かりません。でも、生きていると思います。たぶん……」

 逃げの言葉。

 自分でも情けないと思うほど、曖昧な答え。

 だがジュリアは、それ以上追及しなかった。

「……そうですか……。」

 小さく頷き、胸元で手を組む。

(――ジャワディーには、気を付けろ)

 脳裏に響く、ジンクスの低い声。

 匠は無意識に視線を巡らせた。

 ラボの端。

 重臣ジャワディー・ハーティスが、静かにこちらを見据えている。

 感情の読めない、冷たい眼差し。

(……やっぱり、何かある)

 確信した、その瞬間。

――ウゥゥゥゥン‼

 艦内に警報が鳴り響いた。

「敵影、再接近‼」

 ノブロコフ・トワイスキーの老いた声が艦内放送に乗る。

「クライガスト王国じゃ。先ほどの撤退は様子見だったようじゃな」

「……また、あのクソガキ?」

 アンジュが歯を食いしばる。

 匠は作業台の横に安置された〈D-カイザー〉を見つめた。

 胸の奥で、何かが燃える。

「……俺にも、やらせてほしい」

「は?」

「俺が……この世界での“創造主”なら」

 D-カイザーに手を置く。

「――創って、戦えるはず!」

 その瞳には、もう迷いはなかった。

――現代日本・六畳一間――

 同じ頃。

 ジンクス・ハーティスは、完成したプラモデルを机に置き、腕を組んでいた。

「……なるほどな」

 ここは積村匠の部屋。

 積村匠の身体。

 だが、指先の感覚はすでに“自分のもの”になりつつある。

 その時、スマートフォンが震えた。

 〈仙道 雪乃〉

「……出るか」

 通話ボタンを押す。

『積村さん……? 急に倒れたって聞いて……大丈夫ですか?』

「……ああ大丈夫だ。少し疲れが出ただけ

だ…。」

『……よかった。あの、よかったら今度、一緒に模型屋――』

「……模型?」

『はい。積村さん、好きですよね』

「……ああ」

 通話越しに、ほっとした息遣い。

『この前の企画も、もう少し詰めれば上手くいくって、部長が……』

 その瞬間、ジンクスは悟った。

(なるほどな……この世界では、“企画”を創造するのか…)

 通話を終え、小さく笑う。

「フン……匠、お前は戦場で。

 俺様は“職場”で、か」

 机の上の〈D-ヴレイヴァー〉を手に取る。

 目を閉じ、意識を遠くへ伸ばす。

『……匠』

(聞こえる)

『この先、お前は戦うことになる』

(覚悟は、できてるよ)

 わずかな沈黙。

『……ならいい』

 ジンクスは不敵に笑う。

「先に壊れるなよ。

 俺様の“代わり”なんだからな」

――再び、モディアス王国――

 戦艦のハッチが開く。

 匠は、自分専用に再構築した〈D-カイザー〉のコクピットに座っていた。

 心臓の鼓動が、やけにうるさい。

「……い、行こう……」

 隣にはアンジュの〈シルヴィアンジュ〉。

「言っとくけど。クリエイターの腕は認めるわ。……でも、あたしの足を引っ張らないでよね」

「はは……努力します」

挿絵(By みてみん)

 二機は同時に宙へ躍り出る。

 視界の先に浮かぶのは、クライガスト王国の巨大戦艦。

 そして。

「……あれは……」

 これまで見たことのない、異形の巨大ネンドール。

 明らかに設計思想が違う。

 合理性よりも、攻撃性に振り切った構造。

(……これ、

 誰かが“創ってる”)

 一方、敵戦艦のデッキ。

 玉座に腰掛けるジャカランダ大王は、不敵な笑みを浮かべていた。

 その足元ではギギが舌打ちをし、悔しさを滲ませている。

 そして――

 タブレットを操作する、正体不明の男。

 静かな眼差し。

 計算し尽くされた指の動き。

 二人の創造主を中心に、

 静かに歯車を噛み合わせ始めていた。

 創る者と、壊す者。

 だがその境界は、すでに曖昧だ。

 戦場と職場。

 二つの世界で、二つの戦いが始まる。

――つづく。

挿絵(By みてみん)



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