第13話 D・L・S ―ひとつになる想い―
第13話
D・L・S ―ひとつになる想い―
――モディアス王国・整備ドック――
金属と油の匂いが満ちる空間。
天井を走る魔導灯の淡い光の中、微細な魔導粒子が静かに揺れていた。
整備ドック特有の熱気の中で、匠は工具を持つ手を止める。
「D・L・S?」
振り返った先で、ココルが得意げに胸を張った。
「そうじゃ☝️」 「Dolls Link System――ドールズ・リンク・システムじゃ」
その言葉を、匠はゆっくり噛みしめる。
「ドールズ・リンク……」
聞き慣れないはずなのに、胸の奥で何かが引っかかった。
ココルは肩に担いだスパナで作業台を軽く叩く。
「簡単に言えばじゃな」
一拍置いて、告げた。
「ネンドールと操縦者が――“ひとつになる”ための仕組みじゃ」
――その瞬間。
「……!」
匠の目が見開かれる。
「それだ……!」
思わず声が漏れた。
「模擬訓練のあと、ずっと違和感が残ってた」 「言葉にできなかったけど……俺が考えてた改良案、そのものだ」
ココルは満足そうに頷く。
「やはりの。お前さんとは発想の根が同じじゃの」
空間にホログラムが展開された。
浮かび上がるのは、球体型のコックピット構造。
「これがD・L・Sの核じゃ」
匠は眉を寄せた。
「……操縦席がない?」
「ない」
即答だった。
「操縦桿も、計器も不要じゃ」
ココルは続ける。
「操縦者が内部で動く」 「その動き、感覚、意思――すべてを直接ネンドールへ伝達する」
背筋を電流のような感覚が走る。
「訓練の時、反応の遅れを感じたじゃろ?」
「……あった」
ほんの一瞬。 だが確実に存在した“ズレ”。
「それが限界じゃ」 「“操縦している”限り、人と機体は別物だからの」
ココルは腕を組み、鼻で笑った。
「じゃから境界を消す」
そして、少しだけ懐かしそうな表情になる。
「この構想でな……昔、ある男と散々議論しての」
――回想・整備ドック--
「じゃから言うとるじゃろうが‼️」
「操縦桿が邪魔なんじゃ‼️」
「だぁかぁらぁ‼️」
「操縦桿を握ってこそのネンドール乗りだろうが‼️」
「男のロマンなんだよ!ローマーン‼️」
「戦闘にロマンなど不要じゃ‼️」
「必要だわっ‼️」
――回想が消える。
「あやつが今見たら……何と言うかの」
その笑みに、わずかな寂しさが滲んだ。
(……今は俺の世界で働いてるけどな…ハハハ)
匠は心の中で苦笑する。
「理解したかの?」
「ああ」
力強く頷く。
「ネンドールを兵器じゃなく――」 「一緒に戦う“相棒”にするシステム!」
「その通りじゃ」
ココルは満足げに笑った。
そして視線を格納ラックの奥へ向ける。
「次はその為の…カイザーの解体じゃ」
胸が高鳴る。
壊す。 だが、それは終わりではない。
「機体だけじゃない……思想ごと、再構築だ」
匠は歩み寄り、カイザーの装甲へ静かに手を置いた。
(今度こそ)
(“作品”じゃない)
(本当に、一緒に戦える相棒を)
整備ドックの奥で―― 新型カイザー誕生へのカウントダウンが始まった。
――現代日本・オフィス近くの公園――
昼休み。
ジンクスこと積村匠は、ベンチに腰掛け缶コーヒーを傾けていた。
視線の先には、大きな一本の樹。
理由は分からない。
だが――落ち着く場所である。
「隣、いいですか?」
「雪乃か……どうぞ」
彼女は静かに腰を下ろした。
「最近、ここで考え事してますよね」
「ああ」
匠は苦笑する。
「あの木見てるとな」 「懐かしくてさ……家族とか、仲間とか色々思い出すんだ」
雪乃は頬をわずかに赤らめ、横顔を見つめていた。
視線に気づき、匠は慌てて話題を変える。
「あ、あぁそうだ」 「この前言ってた模型ショップ、今度行くか?」
「はいっ!」
「模型屋“びるどん”ですよね!」
「積村さんが、楽しそうにお店の話をするので興味があって…。」
雪乃が笑顔になる。
〈模型屋“びるどん”〉
模型ショップ兼カフェで購入した模型を店で作成したり、モデラー達が情報交換をする憩いの場所。
二人の笑い声が響く中、静かに大樹が、淡く発光していた。
誰にも気づかれないまま。
リーン…… リーン……
鈴のような音が微かに鳴る。
――クライガスト王国・格納ドック――
「待ってたぜぇぇ!ヒャッヒャッ」
狂喜の声が響く。
新生ネンドール《ゲネル》。
歪な魔力を纏い、ギギが操縦席で笑っていた。
「あまり調子に乗るなよ」
ガガが冷静に告げる。
「今動けるのはお前だけだ」
「分かってるさ!」
ギギは獰猛に笑う。
「今度は負けねぇ」 「借りを返すまではなぁ!」
次の瞬間。
ゲネルが発進する。
紫の魔力を引き裂き――
モディアス王国へ。
一直線に。
戦いは、すでに始まっている。
“ひとつになる者”と。
“歪められた者”の。
次なる衝突が――。
――つづく。




