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RE:TURN ― 風よ、赦せ  作者: TERU


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最終章『塔へ』(38歳) P-042 塔の足元 ― 近づく鼓動

塔が、完全に視界に入った。

灰の向こうに、空を貫く影。輪郭は歪んでいるのに、存在感だけはやけに明瞭だった。


その瞬間――

義手のセンサーが、今までにない反応を返した。

(……来たな)


空気が重い。いや、空気そのものが張り詰めている。


「灰針濃度、上昇傾向だ」

カインが端末を見ながら言う。声は落ち着いているが、数値は嘘をつかない。

「塔が完全に見えた影響か……」「ミカ、今のうちに地下へ通信を」


ミカが即座に頷く。マスク越しでも、集中しているのが分かる。

「地下通信、開きます」


ノイズ混じりの音。だが、繋がった。

『……こちら地下、通信班リュウだ』


ミカの声が、少しだけ明るくなる。

「リュウさん。地下側、状況は?」


『全員無事だ。補給任務も完了して戻ってきてる』『そっちはどうだ?』


「こちらは――」

ミカが塔を見る。灰の奥、確実にそこにある影。

「今、塔が完全に目視できる距離まで来ました」「距離、およそ二キロ……たぶん」


『そうか……いよいよだな』


一瞬、ノイズが強まる。

『全員……無事に帰ガガ……還しガガ……て……』


音声が歪む。

「リュウさん?」

『……ピー……』


通信が途切れた。


ミカが眉を寄せる。

「ノイズ、急に濃くなりました。それと……」


一拍。


「振動、来てます」「地面じゃない……空気、いえ……」


ミカが端末を操作し、データを表示する。

「一定の周期です」「……鼓動みたいな」


カインが画面を覗き込む。

「……これは」「巨大生物レベルの振動だな」


ヴィクターが、肩を鳴らす。

「おいおい……」「塔だけじゃなかったってわけか」


「引き続き警戒だ」「隊列を崩すな」


俺たちは、再び歩き出した。

塔の入口まで――残り一キロ。


そのときだった。


灰の向こう。地平線が、歪んだ。

いや、歪んだんじゃない。動いた。


「……止まれ」


言うより先に、足が止まる。


前方。巨大な影が、ゆっくりと姿を現した。

灰を押し分けるように。地面を踏みしめるたび、空気が震える。


「……なんだ、あれ」

ヴィクターの声が、いつもより低い。


「生物反応……」

カインが言葉を失う。


二足。異常に発達した後脚。

塔よりは低いが、建物よりは明らかに大きい。


影が一歩、こちらに近づいた。


その瞬間――

空気が割れた。


「――来るぞ!!」


影が、加速した。

速い。異常な速さだ。


灰が爆ぜる。距離が一気に縮む。


「まずい、気づかれてる!!」

「早い……!!」


判断する暇はない。

「戦闘隊形!!」


ヴィクターがランチャーを担ぎ直す。

「おい、どうすんだよ!?」「今からじゃ照準が――」


(間に合わない)

義手が警告を鳴らす。詩を使う余裕は、ない。


「……接近戦だ」


言葉が、自然に落ちた。

「ランチャーは捨てろ!」「近接で叩く!」


ヴィクターが、笑った。

「筋肉の出番だな!!」


影が、跳んだ。

地面が沈む。衝撃波が走る。


「――ッ!!」


その瞬間、はっきり見えた。

牙。骨格。圧倒的な質量。


(……デカすぎる)


ヴィクターが吠える。

「んなっ……」「コイツ、デカすぎねーか!?」


答える暇はなかった。

影が、もう一度踏み込む。視界が、黒に染まる。


「来るぞ――!!」


塔の影の前で。

俺たちは、生き物そのものと向き合うことになった。


命令も。祈りも。まだ使えない。

あるのは――帰るために鍛えた、この身体だけだ。


〈ロッカ記録ログ042〉

・塔視認:距離約2km → 1km

・灰針濃度:上昇傾向

・通信:地下との交信、ノイズにより途絶

・新規遭遇:超大型生物反応

・判断:詩の使用不可/近接戦闘へ移行


――風よ、

今は、拳で進む。

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