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RE:TURN ― 風よ、赦せ  作者: TERU


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第9章『塔の脈動』(37歳) P036.5 小さなノック ― 壁と指と、帰る場所

今日は、少し早めに訓練を切り上げた。


ヴィクターは不満そうだったが、無理はしない。 無理をして“戻れなくなる”のは、もう選ばない。


義手を外し、呼吸を整える。 地下の風は安定している。 それでも頭の片隅で、ミカの言葉が残っていた。


――風は、向き合うものじゃない。 ――一緒に、呼吸するもの。


(……あいつ、どこでそんな事覚えたんだ)


考えながら、装備を片付けていると――


コンコン。


ノック。


ガチャ、と扉が開く。


「……ミカか?」


「ロッカさん!聞いて!」


勢いがある。 声が少し高い。


嫌な予感がした。


「……なんだ」


「壁って、指なの……?」


「……何言ってんだ?」


「ち、違う!

 壁に指って、めり込むの!?」


一拍。


理解が追いつかない。


「……いや、何言ってんだ?」


視線が落ちる。


ミカの手。 指に巻かれた簡易固定。 少し赤い。


「……その指、どうした」


ミカが一瞬、目を逸らす。


「ヴィクターさんと、ちょっと……」


ああ。


全部、察した。


「……そうか」


深くため息を吐く。


「指、大丈夫か?」


「うん……多分」


「多分じゃないだろ」


ミカは苦笑いをして言った。


「あの人、多分……

 筋肉よりの、かいぶつ……」


思わず、口元が緩む。


「……否定できないな」


少し間を置いて、続ける。


「ミカ。あいつはな、

 基準が人間側にない」


「……やっぱり」


「だから、あまり気にするな。

 真似しなくていい」


ミカは、ほっとしたように肩を落とした。


「……うん」


「……そろそろ戻らなくていいのか?」


「ん?」


「通信。

 カインに、色々教わってるんだろ?」


「あ、そうだ」


ミカは少し迷ってから、言った。


「戻るけど……

 顔、見たくなって」


胸の奥が、静かに揺れた。


「……そうか」


少しだけ、声を落とす。


「じゃあ、もう戻れ」


「うん」


扉に向かいかけて、振り返る。


「ロッカさん」


「ん?」


「何でミカってわかったの?」


「返事を待たずに扉を開けるのは、ヴィクターとミカだけだ」


「一緒の部屋にいた時の名残だ。これからは気をつけるね。」


「必要ない」


小さく手を振って、ミカは出ていった。


扉が閉まる。


静寂。


義手を見つめてから、端末を取る。


(……あとで、ヴィクターには強く言っておくか)


いや。


(“指”の話は、やめておこう)


風が、静かに通り抜けた。


――帰る場所がある風だ。


俺は、もう一度、呼吸を整えた。

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