短編版アンソロジーコミック発売記念*番外編
晴れて結婚したエヴェリーナとジェラルドは、王都の貴族街の外れに居を構えることになった。
元は高位貴族の邸宅だったが、数年ほど空き家になっていたらしい。庭は雑草がはびこって荒れ放題、屋敷の中も細かな修繕が必要な状態だった。
「結婚後も二人で王城に住めばよいものを、なぜわざわざ出ていく必要がある!?」
国王サイラスはそう言って憤ったが、王妃メリンダが上手くなだめてくれた。
王城は王城でジェラルド王子夫妻の部屋をきちんと準備して、自由に出入りして使っていただいたらよろしいわ。
だけど新居は新居で必要です。新婚ほやほやのお二人の気持ちもわかって差し上げて?
そんなメリンダの説得に、最終的にはサイラスも折れてくれた。
――そして無事に屋敷の手直しも終わり、エヴェリーナとジェラルドの新生活が始まったわけだが。
◇
「起、き、ろ、ライオネル~っ!」
『フグー……』
今日も今日とてジェラルドは声を張り上げる。
荒れ放題だった庭はあえてほとんど手を入れず、ライオネル用の騎獣舎だけ新たに増設した。
庭はライオネルが駆け回るのに充分な広さがあり、騎獣舎の中はエヴェリーナがいつも居心地良く整えている。新しく手に入れた自分の根城を、ライオネルはこの上なく気に入っているようだ。
「もう出勤の時間だろう!? 新居に舞い上がりすぎて、夜更かしをするのも大概にしろとあれほど何度もっ」
「――まあ。どうぞ落ち着いてくださいませ、ジェラルド様」
「! エヴェリーナ」
慌てて振り向けば、愛しの妻がにっこりと愛らしい笑みを浮かべていた。
ひとりでに頬がゆるんでいくのを感じるジェラルドだったが、エヴェリーナの手に大皿があるのに気づいて顔を引き締める。
『ガウッ!?』
ライオネルも反応し、両耳がピンとそそり立つ。
エヴェリーナはしずしずと進み出ると、ライオネルの前に湯気の立つ大皿を置いた。
「さあ、どうぞ召し上がれ」
『ガウッ、グルルルル~ッ!!』
がつがつと食べるライオネルに、ジェラルドは渋い目を向ける。
最近は毎朝こうだ。惰眠をむさぼるライオネルを起こすため、好物のステーキをエヴェリーナがライオネルの鼻先に甲斐甲斐しく用意する。
「エヴェリーナ。少しライオネルを甘やかしすぎだ」
愛おしげにライオネルを見守るエヴェリーナに、ジェラルドは苦言を呈した。
「俺たちが結婚するまでは、ライオネルも普通に早起きできていたのだ。このまま甘やかすのはライオネルのためにならないし、それにいくら我が家の財政的に問題ないとはいえ、最上級のステーキを毎朝与え続けるのは――……」
(……我が家の財政、だと!?)
自分で言っておきながら、ジェラルドは思わず息を呑む。
我が家。
そう、我が家である。
ジェラルドとエヴェリーナとライオネルの、明るく楽しい我が家なのである。
手にしたものへの喜びが込み上げてきて、ジェラルドはじぃんと今の幸せを噛み締めた。
「ごめんなさい、ジェラルド様……。ですが……」
「あっああ、気にするなエヴェリーナ。ライオネルは少々味をしめているだけなのだ。だがもう少し頻度を減らした方が、ありがたみも増すとは思わないか?」
『ガフゥッ!?』
ライオネルが「ひどい!」と言わんばかりに非難の眼差しを向けてくるが、ジェラルドは構わずエヴェリーナだけを熱く見つめる。
エヴェリーナはくすりと笑って、ジェラルドの隣に寄り添った。
「ご安心くださいませ、ジェラルド様。……実は最近わたくしがご用意しているのは、安価な鶏肉のステーキですから」
「ええっ?」
「最上級の牛ステーキは、ここぞという場面でしか出しません。我が家の財政を預かる者として――わたくしも締めるところは締めませんと」
……ジェラルド様の妻、ですから。
照れくさそうに続けたささやきに、ジェラルドの頭が沸騰しそうになる。
思わずエヴェリーナに手を伸ばせば、エヴェリーナも体をぶつけるようにして胸に飛び込んでくる。
頬を染めて二人で笑い合っていると、ライオネルがスン……と小さく鼻を鳴らした。
ジェラルドがちらりと視線を向けた先には、空っぽの皿に愕然と目を落とすライオネルの姿があった。
「……ライオネル様?」
「ライオネル……。お前、もしや……?」
怪しむジェラルドに、ライオネルが『ガウッ』と慌てたように一声吠えた。
ブルルッと激しく首を振り、地面に伏せて出発の体勢を整える。
「どうかされましたか?」
エヴェリーナは不思議そうに首を傾げるが、ジェラルドは苦笑して首を横に振った。
見送りに出てきた使用人に皿を託し、エヴェリーナに手を差し伸べる。
「何でもない。どうやらライオネルも準備ができたようだから、そろそろ出勤するとしようか」
「――はいっ!」
エヴェリーナは嬉しそうにはにかんで、ジェラルドとともにライオネルへ騎乗した。
安全具でがっちり固定して、ジェラルドはすがすがしい朝の空気を胸いっぱいに吸い込む。
「飛べ、ライオネル!」
大きな翼をはためかせ、ライオネルが空へと飛び立った。
結婚してからも変わらずエヴェリーナは騎獣舎で働いていて、朝は一緒に出勤するのが日課となった。エヴェリーナの髪が風になびいてジェラルドをくすぐり、ジェラルドはまたも幸せを噛み締める。
グルル、とライオネルがうなり声を上げたので、ジェラルドは我に返って優しくライオネルの背中を叩いてやった。
(安心しろ。エヴェリーナにはちゃんと黙っておいてやるさ)
――まさか騎獣の王者ライオネルともあろうものが、大好物の味の違いに少しも気づいていなかった……などという失態は、な
笑いを噛み殺し、こっそりと心の中で語り掛ける。
ライオネルはまるで聞こえたかのように、『フスンッ!』と鼻息を荒くした。
ステーキに種類があることを初めて知った、ライオネル6歳なのでした。
でも全部おいしーんだもん!と本人は思っています(*´艸`*)
◇◆◇◆
本日いよいよアンソロジーコミックが発売されます!
漫画家の麦生まいこ先生により、最高に可愛く素敵な作品に仕上げていただきました!
ぜひ皆様のお手元にお迎えいただけると嬉しいです(*^^*)
そしてこちらは予告なのですが、明日からまたコメディな異世界恋愛の新連載を始めます。
ぜひブクマして応援いただけると嬉しいです♪
【6/9追記】
ほんの出来心だったのに!?不浄の辺境伯様は、どうやら私の〇〇がお気に召した御様子です。
https://ncode.syosetu.com/n0266ks/
新連載投稿しました!
よろしくお願いいたします(*^^*)




