6:ドレス店にて
「おはようございます」
下の階に行くと、既にお店の中には六人のお客さんがいました。二人組の方以外はそれぞれ一人のようですが、何やらお話しながら楽しそうに過ごされていました。
「おはようさん。なにか食うか?」
「はい。メニューはございますか?」
カウンター席に座ってそんな会話をしていたら、お客さんの一人に「えらく上品な嬢ちゃんが泊まっているな」と言われてしまいました。
そういえば丁寧な言葉遣いを止めるように言われていました。たぶん素性がすぐバレそうだからでしょう。
かといって、直ぐには崩せそうにはありませんので、努力はしますが生暖かい目で見ていただけるとありがたいです。
エドが真面目な子なんだよとかなんとか、おじさんを誤魔化していました。
「この、パンケーキセットというものをいただけますか?」
「おうよ」
なるほど返事は『おう』とか『おうよ』と言えばいいのですね。エドとお客さんたちが話しているのを眺めるのも、勉強になりそうです。
パンケーキセットは、エドがささっと焼いたふわふわのパンケーキ三枚にメープルシロップをたっぷりと掛けたもの。その横にクリーミーなマッシュポテト、カリカリに焼いた少し厚めのベーコンと、スクランブルエッグが一つのプレートに盛られていました。
メープルシロップとしょっぱいものって合うのかしらと思ったのですが、普通に美味しいのです。なんだか新たな扉を開いた気分です。
「美味しいです! これ、毎日食べたいです」
「ハッ! 気に入ったようでよかったよ」
ほら、と渡されたペーパーを受け取って、首を傾げていましたら、エドが自分の口の横をトントンと指で叩きました。
「あっ……」
どうやらシロップを付けていたようです。
ちょっと恥ずかしいです。
朝食を終え、部屋に戻ってレース編みを再開しましたが、
お昼前の時間に一度止めて、お出かけの準備。
作り溜めていたレース類を持って、貴族街の端にあるドレス店に向かいました。
エドのカフェからは、歩いて二十分ほどの場所にあります。
「いらっしゃいませ」
「こんにちは。店主のサブリナ様にお会いしたいのですが――――」
出迎えた店員さんに説明をすると、直ぐに応接室に通していただけました。そして少し待っていてくださいと。
応接室はそこまで華美な装飾はないものの、とても落ち着いた雰囲気で、貴族がよく訪れるのだなというのが分かります。
「お待たせいたしました。初めまして、サブリナと申します。アレキサンドライト様のことは、昨日の内にカリナから連絡が来ておりました。この度はとても残念な結果になったようで」
「とても晴れやかなのですよ? 気になさらないでくださいませ。それよりも」
カーテシーをして挨拶と、今まで買い取ってくださってありがとうという感謝をお伝えしました。
その後、応接机を挟み二人で向かい合って座り、今後の流れや今までは出来ていなかった図案での発注などの話もまとめました。
お互いに新たな仕事にワクワクとしています。
そして、何よりも大きかったのは、サブリナ様から、半端に残っていたらしいレース糸などの提供があり、それらで何か飾りや刺繍をすれば、またそれを買い取るとのことでした。
特定の図案やドレスの色に合わせるために、特注のものはサブリナ様が用意してくださるそうです。
「凄く、楽しくなってきました。これからもよろしくお願いいたします」
お互いに笑顔で握手し、お店を出ました。
貴族街を見て回るのもいいかと思いましたが、貴族ほどの贅沢は流石に持ち合わせが心許ないので、真っ直ぐに平民街に戻ることにしました。