5:夜明け前、目が爛々
朝日が昇る前にハッと目覚めて、まずベッドが違うこと、そして室内の雰囲気が違うことに気が付きました。
――――あ。
もう、あの人のお世話はしなくていいんだと思うと…………目が爛々としてきました。
こういうパターンは、さぁもっと寝よう!みたいになるかと思ったのですが、元々睡眠は浅いし短いしで、一度目が覚めるともう眠らなくともいいかなとなってしまいました。
昨晩のことを思い出して、口元がふよふよと緩んで弧を描いてしまいます――――。
◆◆◆
もう誰にも文句など言われないのだなと、お風呂にのんびりと入って、窓の外の月景色を眺めました。
伸ばしっぱなしで毛先の傷んだ金髪を乾かしつつ、バッサリ切るのもいいかもなんて考えているとき、部屋のドアがノックされました。
ガウンを羽織ってドアを開けると、少し驚いた表情のエドがいました。
「あ、すまない。風呂に入ってたのか」
「もう上がって髪を乾かしていたところですわ」
「夕方前に食べはしていたが、腹は? 減ってないか?」
「はい! あ、でも喉が渇いたので、後で下に買いに行こうかなとは思っていました」
メニューにあったフルーツティーの温かいものが飲みたかったので。
風呂に入ったんなら、店には下りて来るなと怒られてしまいました。なんでかと聞いてもなんででもとしか教えてくださいません。
「ピッチャーで水は持ってきた。フルーツティーもすぐ持ってくるよ。初めての一人暮らしは大丈夫そうだな」
そんな優しい言葉の次の瞬間には「簡単にドアを開くな」と怒ってはいましたが。
◇◇◇
ティーポットは、室内にある小さなシンクで洗いました。お湯を沸かすことは出来る程度の小さなスペースです。
本格的なお料理は無理そうですが、ちょっとしたスープ程度なら作れそうです。
エドが持ってきてくれたピッチャーからコップに水を注ぎ、コクリコクリと飲みながら、今後のちょっとした計画を立てました。
室内のランプに火を灯し、荷物からレース編みの道具を出して編み…………編み編み……編み編み編み編み。
出だしはゆっくりとなりがちですが、集中とともにスピードが上がっていき、気付いたときにはレースのリボンが何メートルにもなっていることが多いですというか、今がそれなのですが。
「ん? いい匂い……」
部屋に漂ってくる、パンの焼ける匂いと、ベーコンを大量に焼いているような肉々しい匂いで、ハッと現実に戻ってきました。
窓の外に視線を向けると、夜が明けて朝日がしっかりと昇りきっていたことに気が付きました。
昨晩聞いたのは、六時から八時までは朝食の営業をしていて、その後は十一時から通常営業で午後に少しの休憩時間を挟んで、夜の八時まで営業しているということ。
時計を持っていないのでわかりませんが、いまはきっと朝食の営業時間のはずです。
エドに昨晩のお礼を伝えたいですし、お腹も減りました。
着替えて朝食を摂りに下に降りましょう。