42:忘れていた
「エド」
「ん?」
「なぜ、メガネを外されているのですか?」
正装したエドがメガネをかけていなかったことが不思議で、聞いていいのか駄目なのか、少し悩みはしたものの気にはなるので聞いてみました。
エドいわく、メガネは変装用なので、王城にいるときはかけないようにしているとのこと。
変装用なのかと、しょんぼりしていましたらエドがいたずらっ子のように笑って「メガネの俺の方が好きなのか?」と聞いてきました。
「っ、秘密です!」
「ふふっ。秘密か」
王城に向かう馬車の中、そんな他愛ない話をしていました。だから、呼び出されたのは、きっと思っているよりも軽い用事なのだろうと、この時の私は勘違いしていました。
王城に到着し、謁見室という場所に通されました。
そちらでしばらく待っていると、黒い艷やかな髪を下の方でひとつ結びにした壮年の男性が入ってきて、上座にある豪奢なイスに腰掛けました。後ろには沢山の大臣なんて役職名がついていそうな方々を引き連れて。
なんとなく見覚えのある国王陛下。
そして、エドのお父様でもあるお方。
よく見ると目元や口元がそっくりです。
「エドヴァルド、元気そうだな。もう少し頻繁に顔を見せに来てくれていいんだぞ?」
「お戯れを。私は市井に下ったただの平民です」
――――私。
流石のエドも、国王陛下相手には丁寧に話すのですね。
「フフフフッ。いや、私の息子だよ」
「ハァ。で、本題は?」
……そうでもなかったようです。
国王陛下は気にしていなさそうな様子で、せっかちは損だよ? なんてエドに微笑みかけています。
「そっちの美しいお嬢さんが、噂のエドヴァルドの宝石、アレキサンドライトちゃんか」
「なんですか、その通称みたいなのは」
「エドヴァルドが入れ込んでるって報告があったよ?」
「相思相愛です」
「ヒュォ……」
エドの爆弾発言に、喉から変な音が出てしまい、謁見室にいた全員に見られてしまいました。
「彼女はそうでもなさそうな反応だねぇ?」
「照れ屋なので、可愛い反応をしただけです。それよりも、本題を」
国王陛下がいまのが本題なんだけどねぇと独り言ちながらも、パンパンと手を叩きました。
その合図で連れてこられた面々を見て、音が一切消えてしまいました。
「――――! ――!」
私の顔を覗き込み、何かを話しかけているようなエドと、その向こう側で何やら悪魔のような形相で叫んでいる元夫の人と、義母。こちらを睨み付ける知らない女性と、お父様。
「――――! ――アレク、こっちを見ろ!」
「えっ? あ、はい」
急にエドの声が聞こえました。
エドを見つめ返すと、心からホッとしたように微笑まれました。
「さまざまなところから報告を受けていてねぇ。どう処分したものかと考えあぐねていたのだよ」
「……それで? アレキサンドライトを傷つけるのは陛下でも許しませんよ」
エドが私を抱き寄せ、視界にあの人たちが入らないようにしてから、国王陛下に苦情を申し立てていました。
なぜあの人たちがここに?
すっかり忘れていました。
私は、あの人たちとの繋がりがあるかぎり、いつかエドに迷惑を掛けてしまうのに。
エドと暮らす毎日が幸せ過ぎて――――。





