38:あのとき――?
首筋にチュッチュとキスを繰り返すエドに、髪が擽ったいと伝えると、頭をわざとらしくグリグリと擦りつけられました。
「エ、エドッ」
「んはははっ!」
いたずらっ子みたいに笑うエドにキュンとしつつも、身体を少し捩って避けていると、エドが「やりすぎた、ごめん」と謝って、また首筋にキス。
「もうっ……」
それからは、後ろ抱きにされた状態で、ぽつりぽつりとお互いの話をしました。
少し強めに風が吹くと、エドがそっと髪を押さえてくれたり、乱れたらしい前髪を直してくれたりと、お母さん振りが凄かったです。
「エドは世話焼きですね」
「そうか? んあー、癖かもな」
「癖ですか?」
エドが育った農村では親が農作業をしている間、幼い子どもを少し上の子が見るというシステムがあったそうです。大きなお兄さんやお姉さんたちは農作業に駆り出されるけれど、幼いとも大きいとも言いづらい十歳くらいの子たちが、その役目だったとか。
「一人っ子だったが、周りのヤツラと一緒に育ったからなぁ。ついつい世話を焼いてしまうのかも」
「ふふっ」
「なんだよ?」
「小さいエドを想像したら、なんだかほっこりしてしまって」
そう言うと、エドが抱きしめる力を少し強めました。
「ずっと言おうかどうか悩んでいた…………あのとき、助けてやれなくてすまなかった」
「あのとき?」
「アレキサンドライトは覚えていないだろうが、随分と昔に王城で話したことがあったんだ」
――――ん?
「黒髪の騎士様ですよね」
「っ!? アレキサンドライト……覚えて、いるのか?」
エドの身体がビクリと震え硬直したあと、緩やかに離れて行こうとしました。
慌ててエドの腕を掴んで、彼の膝の間でくるりと身体を後ろに向けると、思いのほか顔が近くてドキッとしました。
きっと私の顔は紅潮しています。でも、エドは何かに怯えているような表情。
「逸らさないでください」
視線を逸らそうとしたエドの両頬を掴むと、さらにビクリと震えられてしまいました。
エドは何をそんなに怯えているのでしょうか?
「すまなかっ――――」
「エド、ありがとうございました」
謝ろうとするエドの言葉を聞いてはいけない。本能がそう囁くので、無理やり遮りました。
「あの日のエドの言葉が、ずっと私を支えてくれていました」
「アレキサンドライト?」
「あと、その話、聞きました!」
「…………は?」





