37:沢山の初体験を
ジェラートはカップでオレンジピールとカカオにしました。
手のひらに乗る程度のカップの中に、左半分がオレンジピール、右半分がカカオでタワーのように盛られています。
ジェラートは、味が混ざるのも醍醐味なのだとか。
「味変というやつですね!」
「そそ。それぞれの味を楽しんで、少し混ざった味も楽しんで。何度でも楽しめるんだよ」
ほら食べてと言われ、オレンジピールからぱくり。ベースのバニラの甘さとオレンジピールの酸味と苦味がとても美しく融合していました。そして、カカオは少し甘さ控えめなのでバニラともオレンジピールとも凄く相性がよく、本当に美味しくて、何度も何度も「美味しい」とエドに伝えてしまいました。
エドはというと、「よかったな」と柔らかく微笑みながら、ジェラートを食べていました。
エドが選んだのは、ピスタチオとキャラメル。
ピスタチオのジェラートが翡翠のように綺麗な色でついついジッと見てしまっていると、エドが一匙掬ってこちらに差し出して来ました。
「ほら」
「えっ、あの……」
あーんはパン・ペルデュのときにもやりましたが、一応ここは人前。やっていいものなのかと戸惑っていましたら、エドに溶けるぞと言われてしまい、慌てて口を開きました。
「んっ――あ、美味しい」
「だろ?」
少しドヤッとした顔のエドが可愛くてクスクスと笑ってしまいました。
「なんだよ?」
「色んな顔のエドを見れて嬉しくて」
「……アンタさ、ほんと煽りが上手くなったよな」
今度はジトッとした目つきで睨まれてしまいました。今回は煽ったつもりはなかったのですが、何がそう判定されたのか謎です。
聞いても教えてくれませんでした。
ジェラートを食べ終え、また手を繋いで散策デート開始です。
少し落ち着いた場所に行こうと誘われて向かったのは、王都の門から出て直ぐにある長閑な丘でした。
「王都から出たのは初めてです。こんなに簡単に出られたのですね」
何か厳重な審査や検査などが行われるのかと思ったら、ただ名簿のようなものに名前と戻る時間を書くだけで、ビックリしました。
そのことを伝えると、エドが驚きつつ首を傾げました。
「なぁ、アレキサンドライトはどんな生活をしていたんだ?」
「当初にお話した通り、家から出ない生活が多かったですよ」
「いや……うん。そうだよな…………」
エドが何か言いたそうにしていたのですが、少し口ごもったあとに、丘の平たいところに少し大きめのハンカチを広げそこに座るよう言いました。
「ほら」
「ハンカチが汚れますよ?」
「そのために持ってきたんだから、本望だよ」
それなら、とそこに腰を下ろすと、エドが私の真後ろに立つと、両膝で挟むようにして座り、腕を私のお腹に回して抱き寄せてきました。
一瞬、恥ずかしさでどうにかなりそうだったのですが、背中に感じるエドの体温や包みこまれている感覚に、なぜかとても落ち着きを感じました。
全身で守られている、とでもいうのでしょうか。
とにかく、ここは安全だと思えるのです。
「アレキサンドライトは『過ぎたことだから』と思っていそうだよな」
「いままでのことですか?」
「ああ。今さら何を言ってもどうにもならないんだろうが。これからは俺といっぱい体験して行けばいいんだが……それでも悔しいんだよな」
エドの腕に力が入り、少しだけ苦しくなりました。
その力はエドが私を思ってくれているからこそのように思えて、苦しさも愛しさに感じてしまいます。
「今日みたいに、エドと沢山の初体験が出来るので、私は幸せですよ?」
「ん」
エドが甘い声で返事をしたと思ったら、首筋にチクリとした痛みが走りました。
「――っ?」
「あ、すまん」
そんな軽い謝罪のあと、またチクリとした痛み。そして、ちゅぱっと艶かしい音が耳を襲いました。





