36:捕まえるよ
エドが少し散歩しようかと手を差し出してきました。そこに手を重ねると、少し指をずらして絡めるように手を繋がれました。
「っ!」
恋人繋ぎ。確かに恋人にはなったのですが、人前で触れ合うということに慣れてはいないので、少し恥ずかしいというか緊張するというか……とても、頬が熱いです。
エドがしてやったりみたいな顔をするので、ちょっとムッとしていると、ハハッと声を出して笑われてしまいました。
「そんな顔もできるんだな。可愛い」
「……エドはずるいです」
「なにがだよ」
「そうやって誂うところです」
「嫌いになったか?」
ちょっと困り顔で聞いてくる、そんなところもずるいです。嫌いになれるわけがないのですから。
だから、仕返しです。
絡めた指を解いてエドの手からするりと抜け出し、一歩離れました。
「もし、そうだったらどうします?」
真剣な顔でそう聞くと、エドが二歩近づいて来て私の左手首をキュッと握りました。
「どこまでも追いかけるし、こうやって捕まえるよ」
手を持ち上げられ、薬指の根元に口づけをされました。
「縛りたくはないが、逃しもしない」
「っ……!」
心臓が恐ろしいほどに脈打ち、爆発してしまいそうです。
私は学びました。慣れない煽りはするものではない、と。
指を絡め直したエドに手を引かれながら、平民街を散策しました。
おすすめの野菜屋さんやお肉屋さん、大概が食べ物屋さんを教えてくれました。途中でエドがハッとして面白くないよな?と聞いてきました。
日々のお買い物計画を立てながら聞いていたので、もっと教えてほしいとお願いすると、エドに真顔で「アンタ、やっぱり変わってるよな」と言われてしまいました。
「あ、あそこのジェラートが美味いんだ。食べるか?」
「はい!」
ジェラート屋さんの可愛い木彫りのドアを引くと、カランカランと綺麗なドアベルが鳴りました。
「あら、エドじゃない。いらっしゃい」
「よぉ。中で食っていいか?」
「うふふふ。もちろんよ」
どうやら顔見知りのようです。
というか、平民街を散策していて、どのお店の方々にもエドはよく声をかけられています。そして、エドも笑顔で応対していました。
エドは本当にここに馴染んでいるようです。
「アレキサンドライト、どれにするか決まったか?」
メニューの方に視線を向けてぼーっと考えていたので、メニューに悩んでいると勘違いされました。
「すみません、まだです。おすすめってありますか?」
「オレンジピールのジェラートはマジで美味いぜ。ダブルにするなら、チョコ系かな」
ダブルってなんでしょうか? どういうものなのかと聞くと、驚かれてしまいました。
「そうか、知らないのか……それなら、ダブルにしよう。初体験だ!」
エドが明るくそう言ってくれるものだから、自分の知識のなさにしょんぼりする暇などなく、ワクワクとした気分になれました。
「初体験、してみたいです!」





