35:覚悟はあるのか?
師匠さんが料理を運んできてくださったのですが、どれもこれも美味しくて頬が落ちそうだと言うと、エドが心の底から嬉しそうに微笑み頷きました。
師匠さんは、エドにとってとても大切な人のようです。
色々とあったエドに、剣の師匠さんや料理の師匠さんなど、親身になってくれる人がいてよかったなと思っていたせいか、口から「よかった」と漏れ出てしまいました。
「なにがよかったんだ?」
「えっ、あ……あの」
「どうした?」
少し不安そうな表情で顔を覗き込まれて、耐えられずについ話してしまいました。
「ん……アレクサンドライトにもそういう人がいれば…………」
「ふふっ。それがエドですよ。そんなに悲しい顔をしないでください。それに、サブリナ様やキーラさんとも知り合えて、最近とても楽しいんです」
「そうか」
とても簡素な返事でしたが、エドが少し顔を背けていたので、照れているのを誤魔化しているだけのようでした。
そんなエドも好きですと伝えたいけれど、メイン料理を食べているいまじゃないわよね、と諦めました。
「美味しいですね」
「あぁ」
メインのあとは、デザートが届けられました。そして、師匠さんが他の席からイスを持ってきて、対面で座っていた私とエドの間にドカリと腰を下ろしました。
「さて、説明してもらおうか?」
鋭い目つきで睨まれてしまい、ビクリと身体が震えてしまいました。
ここで尻込みしてはせっかくのチャンスが台無しです。
「私、アレキサンドライトと申します。エドさんとは真剣にお付き合いを――――」
「違う違う、あんたじゃなくてエドだよ」
「あ? アレキサンドライトが言ったろ。真剣だよ」
「ふうん? 父親はどうすんだい?」
「報告はもう入ってるから、なんかあったら接触してくるだろ」
話に置いていかれ気味ですが、どうやら師匠さんはエドが誰なのかを知っているようです。
そして、国王陛下に報告が入っていると聞いて、やっぱりかという気持ちと、そんなことも報告されてしまうのかという残念な気持ちも。
仕方のないことなのでしょうが、いったいどこまで報告されてしまうのでしょうか?
「そうかい。それで、アレキサンドライトだったかい? あんたはエドの素性を知ってるんだろ? これからどうなるか考えてるのかい? 覚悟はあるのか?」
――――これから?
これからどうなるのか。
そんなことは私には分かりません。ただ、エドが好きで共にいたいというだけでは駄目なのでしょうか? 何があっても、二人で協力していければいいなと思っているし、エドが何かに困れば支えたいという思いもあります。
「王族のことは分かりません。貴族のこともいまいち分かってはいません。ですが、エドと共に生きる覚悟だけはあります」
いまのところ、支えてもらってばかりですが。と付け加えると、師匠さんから「えらく肝が据わった嬢ちゃんだね」と言われました。
そうですか? と首を傾げていると、エドが師匠さんがいない側に顔を向けていました。
それを見た師匠さんがニヤリと笑い、エドの背中をバシンと叩きました。
「早く食いな! せっかくのデザートが生ぬるくなるよ」
「ばぁさんが邪魔したんだろが!」
その後、エドと師匠さんが言い合いをして、本来の開店時間になってしまい、店を追い出されてしまいました。
結局、師匠さんはなにを確認したかったのでしょうか。





