33:甘々すぎて。
デートの約束をしたお昼前の時間、エドが部屋に来ました。
サブリナ様と選んだ服も、キーラさんに習ったお化粧もバッチリで彼を出迎えました。
エドがジッと見つめてくるのでどうしたのかと思い首を傾げると、ふわりと柔らかく微笑まれました。
「そういう風に着飾ってるアンタも可愛いな」
「っ――――!」
まさかの甘い言葉に、急に恥ずかしくなってきました。気合を入れすぎたでしょうか? それとも普段があまりにも野暮ったいとかそういう感じに見えているのでしょうか?
「こっちのほうが好きですか?」
「んー? どっちもアンタ……じゃねぇな、アレクサンドライトだろ?」
その言葉に、心が温かくなって、体までぽかぽかしてきました。
「いつもしない化粧を今日はしてるってことは、どこに出かけてもいいようにとか……まぁ、俺がどこにつれてくか秘密にしたせいな気もするが。ちょっとだけ、俺のためなのかなとか自意識過剰なことも考えてるのと……」
「と?」
続きの言葉を待っていたら、唇が触れるか触れないかの距離にエドの顔が近付きました。
「――――キス、出来ないな、ってな。せっかくの口紅が取れる」
「っ! あぅ、はわっ……あああああの、てっ手鏡も口紅もっ、持ってますからっ」
「ふぅん?」
ほんの一瞬だけ触れるようなキスをして、ゆっくりと顔を離したエドの顔は、どう見てもしてやったりの表情。
私のほうはというと、絶対に真っ赤になっています。
「ん、ちょっと触れるくらいなら崩れないか。じゃあ、行こうか?」
エドが右手を差し出してニコッと笑うので、なんだか負けた気分でムッとしつつ左手を重ねると、「頬を膨らませたアレキサンドライトも可愛いな」と更に笑みをこぼされてしまいました。
これはもう勝ち目がありません。まぁ……自分でもなんの勝負かは、分かっていませんが。
エドのカフェを出て左手に向かいました。右は貴族街方面、左は平民街。その先には農業地帯が広がっています。
おしゃべりしながら平民街をのんびり散策しつつ、歩いていたのですが、なんとなく目的地があるような歩き方でした。
「あの、どちらに向かわれるのですか?」
「秘密だって言ったろ?」
「むぅ……」
「っははは! 分かったよ。いじけるなって」
クスクスと笑われつつ教えてもらったのは、エドの料理の師匠のお店なのだそうです。
平民街の少し奥まった人通りの少ないところにある、民家のような佇まいのお店に到着しました。
「入ったら、覚悟しとけよ」
「なにをですか?」
「色々」
「もう! エドはいつも説明が少ないです!」
ちゃんと教えて欲しいのにと言うと、エドが嬉しそうに微笑んでまた一瞬だけ触れるようなキス。
「そういうふうに、感情をいっぱい見せてくれるのは嬉しいもんだな」
「っ、ごまかされまひぇん」
誰も見ていないとはいえ、こんなところでという恥ずかしさと、でもエドがキスしてくれるのは嬉しくて、感情がごちゃまぜになり……噛みました。
「ふはっ。ん、可愛い」
今日のエドはなんだか甘々すぎて、まだデート開始二十分なのに心臓が破裂しそうです。





