32:お化粧の練習
夕食を手早く終え、キーラさんを私の部屋に招待しました。
エド以外が入るのは初めてで少し緊張したものの、キーラさんが何も気にすることなく部屋の真ん中にあるテーブルに向かってくれたので、なんだか肩透かしの気分でした。
ただ、いい意味で気が抜けたので、お茶を出して早速本題に。
「これを買ってきたんですけど」
「うん、いいじゃない。一通り揃ってるわね」
スキンケア類、下地、ファンデーション、アイブロウ、アイメイク、チーク、最後に口紅だと教えていただきました。
どうにも覚えられなくて、紙に手順とコツまで書いていただき、一度見本にメイクしていただけることに。
「今まで一度もないの!?」
「ええ、機会がなくて」
「アレク、一応貴族でしょ?」
――――あれ?
貴族ということを話した覚えはないのですが、そもそもエドにバレバレだと言われましたし、きっと皆様に気付かれているのでしょうね。
「そうなんですけどね…………」
「詳しくは聞かないわよ。それに、いまから覚えて楽しめばいいしね!」
「はいっ!」
キーラさんに説明を受けながらお化粧していただきました。スキンケアの大切さや、下地をムラなく塗るコツ、最近の流行りの色やアイラインの入れ方。
「アレクは、ナチュラル系の薄めが似合うわね。うん! この口紅もいい色……ってかコレだけエグい値段のやつ……」
「あ、口紅はサブリナ様のおすすめなんですけど、自分には似合わない色だからってくださいました」
「サブリナ様? ドレス店の? もしかして今日出かけた相手ってサブリナ?」
「はい」
レースを納品したりしていて仲良くなったのだと話すと、キーラさんが少し驚いた顔をしました。
「あの人、誰かと外出することあったのね」
「よくお出かけされているみたいですよ?」
「……うん、そうだけどね。ま、アレクは気にしなくていいわ」
なんとなく歯切れの悪いお返事でしたが、そのあと直ぐに笑顔になられて鼻歌も漏れ出ていたので、不機嫌になったわけではないようです。
「よし、出来た!」
「わぁ!」
「じゃ、一度クレンジングで落として、今度は自分でやってみるわよ」
「え……」
明日の朝は自分でやらなきゃなのに、ぶっつけ本番は流石にマズいでしょ? と聞かれて、それはそうだと気付きました。
「がっ、頑張ります……!」
キーラさんに応援されながら、四苦八苦でどうにかこうにか、お化粧には成功しました。
いつもより一時間早く起きて、スープとパンで朝食を済ませて、早速お化粧開始です。
「っ、よし…………よしっ!」
何度か『よし』と気合を入れて、キーラさんが書いてくれた手順書に目を通しました。





