29:人は見かけではわからない。
サブリナ様に、平民のデート服を売っているお店を紹介してほしいとお願いすると、いま直ぐ一緒に買いに行きましょうと言われました。
予約必須で何ヵ月も待たなければいけないはずのドレス店なのですが……?
「予約を取らない日もあるし、取らない時間もあるのです。お昼を跨ぎそうな時間とか。ご飯食べたいですし」
――――なるほど。
サブリナ様は貴族街にも平民街にもよく通っているとのことで、ぜひ今から!と二度も言われてしまえば、断れるはずもなく。
「よろしくお願いいたします」
「わぁ! アレキサンドライト様とデートですわ!」
「女性同士でも、デートと言うのですか?」
「はい、言います」
サブリナ様がずいっと顔を寄せて来られました。そして真顔で頷きながらそう返事されましたので、きっとデートでいいのでしょう。
「デートにも種類があるのですよ」
素早く平民のような装いに着替えたサブリナ様と店を出て、歩きながらおしゃべり。
先ずはデートについて。
「ショッピングデート、庭園デート、遠乗りデート、夜景デート……いろいろとありますわ。そして時間帯やシチュエーションに合わせて、服を決めたいところですわね。ちなみにデートの内容はお聞きに?」
「それが、内緒とのことで。楽しみにしておいてくれとだけ言われました」
「まぁまぁまぁ! 焦らしプレイもアリですわね!」
サブリナ様がふんすふんすと鼻で息をしていました。どうやって音を出しているのでしょうか。ちょっと謎です。
「着きましたわ。こちらの店舗は若い子たちに人気ですの」
――――若い?
見た限り、二十代向けの華やかな服が売ってあるようですし、サブリナ様も私とあまりお変わりない年齢だと思うのですが。
サブリナ様の言い方から、彼女は年齢的にここでは買わないといった雰囲気です。
「あらあら、まぁまぁ、流石に四十代には厳しいですわよ?」
まだ何も言っていないのに、気になっていることに答えられてしまいました。
「人の気持ちや思いを察するのが得意なんですの」
サブリナ様がうふふと可憐に笑っていました。その姿はどう見ても少女のようで。
「それに、もう十八になる息子もいますし。お母様、キモいとか言われちゃいますわ……死活問題ですからね!? 泣いてしまいますからね!?」
「十八歳の……お子様…………?」
「ロイドと言いまして、黒髪でとても可愛らしい子なのですよ!」
すずいっと前のめりで、ご子息様の可愛いところを怒涛のように話されました。
サブリナ様はどうやら、興奮すると口数が増えるようです。
それにしても、そんな大きなお子様が……。
人は見かけでは分からないと言いますが、こんなパターンもあるのですね。





