28:とりあえず、ドレス店に
エドからデートに誘われてから、ずっとソワソワしています。
納入にはまだ時間があるのに、結構時間が掛かるタイプの細かな紋様入りのレースを、一日で仕上げてしまいました。
ソワソワしっぱなしで、どうにも体が勝手に動くのです。
「とうとう明後日……あっ!」
ベッドに寝転がってボソリと独り言ちたところで、何を着ていくか決めていませんでした。
慌ててクローゼットを見ましたが、普段着しかありません。
――――まずいです!
朝一番に、出来上がったレースたちをカバンに詰め込み、ドレス店へと向かいました。
「アレキサンドライト様、良かった。ご無事でしたのね!」
「はい?」
美しい金の髪をたおやかに揺らしながらサブリナ様が駆け寄って来られました。
「本当は直ぐにでも駆けつけられればよかったのですが、止められてしまい――」
「えっと? 何のお話でしょうか?」
何のことか分からず首を傾げていたのですが、両手をギュッと握られ、怒涛のように仰られた内容で多少理解できました。
「勝手に動くからこうなるんだと、ニクラウス様に怒られてしまいまして。私的にはですね、彼の御方も連れられている女性も、私のドレスには相応しくないという理由でしたが、確かにアレキサンドライト様を庇護したい気持ちはありました。何より、彼の御方の執着心や気持ち悪いほどの勘違い、意識の低さと知能の低さを舐めくさっておりましたの。まさか、押し入るなんて思ってもいませんで、ニクラウス様にはアレキサンドライト様の護衛をとお願いしていましたが、それは弟様の領分だからと断られてしまいまして。それなら私が保護しますと言ったのですが、更に更に怒られてしまいまして……この恨み、あのアホ侯爵に償ってもらわないと気が済みませんが、そこも静観しろばかりで、いまニクラウス様と絶賛喧嘩中で、外出が出来なくなっておりアレキサンドライト様のところへ謝罪に向かえませんでしたのっ」
一気に捲し立てるように話し、フーフーと肩で息をするサブリナ様。
内容は理解できないところも多かったのですが、たぶん元夫の人がカフェに押し入って来たときの話をしているのでしょう。
「あの、よく分かりませんが、ケガなどなかったので大丈夫ですよ。ご心配おかけしました。もしかして、あの日のことは噂になっているのですか?」
「いらぬ噂は握りつぶしますので、お気になさらず!」
「えっ……はい」
更によく分かりませんでしたが、大丈夫とのことでした。変な噂でエドのカフェにご迷惑をお掛けしたくなかったので、ほっとしました。
「ところで、本日はどのようなご要件で?」
「あっ! それなんですが――」
レースを渡したら、デート服について相談してみようと思って、こちらにお伺いしたのでした。





