26:自由なんだよ
お話を聞いていて、ふと気付きました。
「あの、もしかしてタイミングよく帰ってこられたのは」
「あぁ。飲んでたら急いで戻れと言われた」
なるほど。暗部の方がこちらも見張っていてくださったのでしょう。自意識過剰でなければ、エドの希望で。
流石にそれを聞くのは恥ずかしいので、今はまだそっと心に仕舞い込んでおきます。
「そういえば、酔った勢いで裏口を修理しといてくれと言ったんだよ。まさか本当に修理してくれるとは思わなかった……次に食いに来たときはタダにしてやろう」
エドってわりと強かというか、もらえるものはもらっとけのスタンスのようですが、恩義もしっかり返す方のようです。
私もお礼を言いたいですが、暗部だとバレたと分かったら二度と顔を出さないとか、そういったことにならないのかは心配だったのでエドに相談しました。
まさかの「いんじゃね?」でした。
「内容をぼかして伝えればいい。アレキサンドライトが言いたいんだろ? それを優先しろよ。アンタはさ、我慢しすぎなんだよ。あのアホのことにしてもそうだ」
「アホ?」
「アンタのいう『元夫の人』だよ」
「あ……はい」
自分で話した過去とはいえ、エドに元夫の人と結婚していたと知られているのが、酷く恥ずかしいと思ってしまいました。
流されるままに生きて、自分では何も決めず、何かを言い渡されてから、動く。まるで機械や人形のような人生でした。
自ら進む道を決めてきたエドとは全く違う。
「アレキサンドライト? どうした?」
いつの間にか視線がエドから机の木目に移っていました。それに気付いたエドが、心配そうにこちらを覗き込んでいます。
「いえ、なんでもありません」
「そういう嘘は止めろ」
ピシャリと言われて、肩がビクリと震えました。
「あ。すまん、言い方がきつかったな」
「いえ、いいのです。私が悪いので」
「…………なぁ、アレキサンドライト。アンタはさ、もう自由なんだよ。いやまぁ、家のしがらみとかあのアホとか、いつかはやらなきゃならんことも残ってはいるが。それでも、自由なんだよ」
エドが真剣な表情でそう言いました。
「自由?」
「あぁ」
今まではそれが許されてなかったかもしれないが、今は自由に決めていい、と言われました。それは自分でも分かっているはずだ、とも。その楽しさを既に体験しているのだからと。
「我慢せずに吐き出せよ。やりたい、やりたくない。好き、嫌い。思ったことも言っていいんだよ。我慢して、言葉をのみ込むな。俺はアンタの思いを聞きたい」
あまりな本音は相手によるが、俺は全部受け止めるよ、と笑顔で言ってくださいました。その言葉に、胸や喉がギュッと締め付けられました。
「っ、いっぱい言いますよ? 本当に受け止めてくれますか?」
「あぁ」
「いっぱい、いっぱい、ワガママ言いますよ?」
「アンタのワガママなんて、可愛いもんだよ」
さらに微笑まれて、私の涙腺は馬鹿みたいに緩んでしまいました。
 





