25:いろんな意味で、凄い。
◇◇◇
夜になり、エドがカフェの仕事を終えて私の部屋に来ました。
「すまん。部屋がまだ散らかっていてな」
「言ってくださればお掃除しましたのに」
「……ん。恥ずかしいから嫌だ」
そっぽを向いてそう言うエドは、眼鏡で見えづらくはありましたが、頬が少し赤くなっているような気がしました。
ふふっと笑いつつ、お話の続きを聞かせてくださいとお願いすると、コクリと頷いてくださいました。
テーブルを挟んで座り、前のめりになりながら、エドの言葉を待ちました。
「いや、そんなにワクワクする話ではないんだがな。そうだな――――」
エドは王位継承権を放棄して、市井に下ったとのことでした。
そんなことが可能なのかと聞けば、王位は長子継承ではなく立太子制度なので、放棄したい者はわりと簡単に放棄できるのだとか。
ただ、国王陛下が思ったよりも過保護だったために、ここには暗部の監視があるのだとか。
「暗部?」
「日常生活を覗き見とかは……ほぼない。たぶん、きっと、そう思いたい」
「たぶん……」
「ただ、店の客になりすましてというか、普通に飯を食いに来てるがな。あとは外からの監視だな。命の危機に瀕しない限りは、決して手出しはしてこないと思いたい」
思ったよりも厳重に警備されているのでは? と思ってしまいますが、エドはこれでも随分と緩んだのだと言います。
なぜそんなに過保護なのかと聞けば、国王陛下は手元で育てたかったことや、お母さんが病気の時に側にいられなかったことを凄く後悔しているのだとか。
「まぁ、母がウザいから来るなって言ったんだがな」
「お、お母様!?」
「結構辛辣な人でなぁ。国王の仕事をほったらかして来るのは許さないとか、そんな暇があれば国を良くしろとかな、手紙に書きまくっていたよ」
なんというか、ちょっと特殊な性癖が見えたような気がしたのは、気のせいにしておきたいです。
何度か見た覚えのある、国王陛下のお顔がふと頭に浮かびました。
黒く長い髪を低い位置で結び、なんというかとにかく眩しい作りのお顔なんですよね。エドはもう少し野性味があるような気がしますが、わりと似てはいます。
「陛下とエドは仲が良いのですか?」
「どうだろうな。まぁ、嫌いではない、という程度だな。あと、使えるものは使う。指輪とかな」
ポケットからコロンと机の上に出したのは、漆黒の宝石が埋められた太めの銀の指輪で、リング部分に細かく飾り彫りが施されています。
王の子だという証の指輪。
国民の間でとても有名です。偽装が難しすぎるということもですが、指輪職人が心折れそうになるほどの王子と王女の数だという方面で。
「俺のときも、職人が嘆いていたな。二十六人目だと」
「にじゅ……」
二十人近くいるというのは何となく把握していたのですが、まさか二十六人。
国王陛下……いろんな意味で凄すぎます。





