24:光と影
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レギーナが行きたいと言っていた、王都で一番人気のドレス店に来た。
どれだけの地位があろうと、どれだけ金を積もうとも、優先度は変わらず予約制。
半年以上前から予約をしていた。レギーナのために。
正式に妻として連れていけることの嬉しさを胸に抱き――――入店拒否された。
「大変申し訳ございません。今後一切のお取引はお断りさせていただきますわ」
何を言っても、そう断ってくる店主。
どんな圧力にも屈しないと有名で、この店の後ろ盾がやんごとなきお方だとか、様々な噂がある。それは、貴族たちの中では有名な話だった。
「パウル様、なぜですの! なぜ私がこのような辱めを!? 酷いわっ!」
「すまない、レギーナ。なにがあったか調べるから、ねっ? ほら、宝石商に行こう?」
「ドレスも! 買ってくださいまし!」
「あぁ、もちろんだとも」
レギーナの機嫌を取りつつ、部下たちに調べさせて分かったのは、あのドレス店にアレキサンドライトが入り浸っているということ。
そして平民街のカフェに住んでいるということ。
――――こんな近くにいたのか!
ドレス店の店主にありもしない私の悪口を言い、来店しても断るよう仕向けたのはアレキサンドライトだろう。
この私に恥をかかせた報いを受けてもらおうじゃないか。
カフェの店主が出掛けたと報告があり、建物にはアレキサンドライトしかいないと言われた。
馬車を走らせて平民街のカフェに向かった。
部下に裏口の鍵を壊させ中に侵入する。話では二階にいるとのことだった。
「私はここで見張っておりますので」
「あぁ」
そうして二階に上れば、いくつもの部屋があった。
どの部屋か調べておけよとイラッとしたが、ドアの下から光が漏れている部屋があった。
――――ここか。
耳を澄ませれば、鼻歌が聞こえてきた。聞き覚えのある声。
ご機嫌でいいものだな? 私に恥をかかせ、レギーナの機嫌を損ない、何がしたい? 何の恨みがあるというのだ。貧しく酷い扱いをされていたところを救ってやったのに、こんなふうに裏切られるとは思っていなかった。
この報いは必ず受けさせる。
そうして、アレキサンドライトを部屋から引きずりだそうとしていたら、店主が帰って来てしまった。
「何をしているんだ!」
くそっ、見張りの護衛は何をしているんだ。どいつもこいつも役立たずばかりだ。
「アレキサンドライトを引き取りに来た。保護してくれた謝礼はする」
「は?」
「私は、あの女の主人だ」
「は?」
なんだこの店主は。無駄に体格がいいのが気になるが、そんなことよりも酒臭い。あと目が据わっていて、話が通じるのか少し不安になった。
「私は、アレキサンドライトの主人だと言ったんだ」
「……帰れ。殺すぞ」
「なっ!?」
酔っぱらいか! 酔っぱらいは何をするか分かったものではない。
だが相手は脚を引きずっているし、こちらは階段の奥側にいる。何かあっても、階段へ押して行き落とせば体格差など関係ないだろう。私もそこそこ鍛えているからな。
「私はヘンチュケ侯爵である。平民ごときが私に手を出してみろ! 一族郎党根絶やしにされるぞ」
「……出来るもんならしてみろ」
「ハッ! 酔っ払いとは、脳が使えんのか。地位の差も判断できぬとはな」
「俺はな、地位をかざすのは好きじゃねぇ。だが、お前みたいな馬鹿にはこれが一番効くってのは、酔ってても分かるんだよ」
男がそう言ってズボンのポケットから出したのは、王の子であるという証の指輪。
それは、偽装するだけで死罪になるもの。そもそも特殊な技術が使われており、偽装も難しい。
「っ……なぜお前がそれを…………」
「残念なことに、王族だからだろ」
聞いたことがある……継承権を放棄した落胤がいると。まさか、こいつが!?
「俺と関係者以外は知らないことだがな、ここには暗部の監視が付いている。侵入した時点で、お前の家には制裁が入る。あのクソ親父が、それを条件にしやがったからな」
過保護にも程があると男が頭を掻いていたが、過保護とかいう問題じゃないだろう! 我が家に制裁が入る!? なんだそれは!
「つまりだ……さっさと俺の城から出ていけっ!」
男に怒鳴られ、ハッとした。家に制裁が入る。いつどのタイミングかわからない。家にはレギーナがいるんだぞ!?
クソッ! クソ、クソ、クソ、クソ、クソ、クソッ! クソ、クソクソクソクソクソ! クソッ――――!