23:新しい一日
エドとベッドの中でおしゃべりをしている間に、カフェの開店準備の時間になってしまいました。
「しまった! もうこんな時間か。また夜に話そう」
「エ、エド!」
「ん?」
ベッドから飛び起きて私のこめかみにキスをすると、慌てて部屋から出ていこうとしていたエドを呼び止めました。
「あの、あまり役には立てないかもしれませんが、お手伝いをさせていただけないでしょうか?」
「んー。アレキサンドライトの手は、レースを編んだり、装飾品を作るためのものだろう?」
そう言われて、ハッとしました。
「……はい」
「ただ……まぁ、なんだその、手が荒れない程度に少しだけ、頼んでもいいか?」
「っ、はい! ぜひ!」
私もベッドから飛び起きて、身なりを整えてカフェに下りました。
「おいおいおいおい、なんだよ、どういうことだよ! なんでアレクちゃんが中にいんだよぉ」
朝一番で朝食を摂りに来る常連のマークさんが、厨房でお皿やカップを並べていた私を指さし、プルプルと震えていました。
「お手伝いです!」
「まぁ、それ並べてもらったら終わりだけどな」
「「えー」」
「なんでおっさんもアレキサンドライトも……」
マークさんと二人で「「だってー」」と声を揃えて言ってしまい、二人で顔を見合わせて笑ってしまいました。
「アレキサンドライト、おっさんといちゃついて煽るんなら、夜は覚悟してるってことだよな?」
耳元でそう囁かれて大慌てで首を横に振りました。
「エド……男の嫉妬は醜いぞ?」
「あ? おっさん、今日の朝メシはドレッシング抜きサラダでいいんだな? そうかそうか」
こめかみに青筋をビキィィィと立てたエドが、大きめのボウルをガシッと掴みました。流石にその量のサラダはドレッシングがあってもきつい気がします。
「……す、少し減らしてあげたほうが」
「アレクちゃん!? フォローの方向が可怪しいから! 止めるなら、ドレッシング入りにしてくれよぉぉぉぉ」
マークさんがキェェェェと叫んでいましたら、他のお客さんたちが何事かと店内にぞろぞろと入って来られました。
「アレキサンドライト、手伝いありがとな。アンタはそっちに座って、朝メシ食え」
「はい! またお手伝いさせてくださいね?」
「……チッ。ケガしないようになら、まぁ考える」
エドは舌打ちをしていましたが、表情は柔らかかったので、了承の意味なのでしょう。
マークさんが、「え、なに、二人とも、なんかそういう雰囲気なの!? え? ね、ねぇ、ちょっとおじさん無視されると泣きそうなんだけど!? ね、ねぇって!」と一人で騒ぎ、エドにうるさいと怒られていました。
そして、朝食を摂りにきた皆さんに大笑いされていました。
何だかいままでとは違う、新しい一日の始まりのような朝でした。