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22:昔々、あるところに

 



◆◆◆



 昔々、あるところに、長く美しい黒髪を持つ少年がいた。彼は嫌だったが、母親が伸ばすよう強要していた。なんでも、彼の父親がそうだったからと。


 母親は偉い人のお手つきだったという。誰かは教えてもらえなかったが、彼は何となく気づいていた。

 彼ら母子が住んでいたのは田舎の農村だったが、定期的に高級な身なりの人物が家を訪れ大金を置いていくのだ。その人物は母親に恭しく挨拶をして、直ぐに去っていく。


 きっと、父親の部下か使用人なのだろうと予想していた。

 その予想は合っていた。

 彼の母親が病に倒れてしばらくして、その人物がまた家に来た。その人物は、なぜすぐに言わなかったのかと憤りつつも、直ぐに主人に連絡をした。

 そうして現れたのは、長いたおやかな黒髪のこの国の王だった。


 この国の王は、恋多き人物というのが周知の事実。正妃、側妃、妾妃……など、十人もの妻がいた。それぞれを本気で愛し、それぞれの間に沢山の子どもがいた。

 ただ、妃たちや王子王女たちの地位争いは苛烈なもので、彼の母親はそれらに関わりたくないとのことで、戦線離脱し田舎の農村に逃げ込んだのだった。


 母親は最後まで王都に戻ることを拒否し、農村で息を引き取った。

 そして天涯孤独となるはずだった彼は、国王の息子として王城に住むこととなる。




 きらびやかな世界だと思っていた。高貴な人物たちが楽しそうに笑って、美味しいご飯やお菓子を食べて生活しているのだと思っていた。

 だが、そこで目にしたのは、想像とは真逆の腹の探り合いと、裏切りに出し抜きに蹴落とし。人間の汚さというものをまざまざと見続けることとなった。


 とりわけ、急に新たな王子だと連れてこられ、年齢的にかなり上にいた彼は、歳下の王子や王女たちからの嫌がらせの標的となった。

 国王は、そういったことには一切関知しないと宣言しており、王太子には立ちたいものが立てばいいとして、決して年功序列というわけでもなかったことで、歳上の王子たちからは酷く敬遠されていた。


 彼を唯一気にかけてくれたのは、騎士団の顧問であった老騎士だった。

 昔は近衛騎士の長で、国王の側にいた人物。引退してからは、騎士団の顧問として新人騎士の指導を行っていた。

 そして、彼の母親のことを知る人物でもあった。


 彼の母は、国王付きの侍女だった。家は伯爵家で特に地位が高いというわけでもなく、低いというわけでもない。ただ、分をわきまえていたらしい。

 何があっても、淡々と仕事をこなしていたのだという。国王に擦り寄らず仕事を優先する姿に、国王が興味を持ち――――色々なことがあり、彼が生まれたという。


 老騎士は、彼を指導した。剣術や武術だけでなく、貴族としての知識やマナーまでも。

 そして、前を見る大切さを教えてくれた人物でもあった。




 数年が経ち、老騎士が天寿を全うした。

 彼の味方はほぼいなくなってしまった。

 

 彼は悲しみ、戦闘に明け暮れた。戦っている間は、目の前のことに集中出来た。悲しみや苦しみを忘れられた。

 彼は率先して戦場へ出た。

 戦場といっても、少数の部族などの抗争への介入や、他国からの要請に応じる程度で、国自体が戦争をしているわけではなかった。

 だからこそ、だったのだろう。

 彼は遠征先で仲間の騎士たちに裏切られ、戦場に取り残され、大怪我を負った。


 命は助かったものの、騎士としての命はそこで潰えた。




◇◇◇




「身分を捨て、呪のようだった長い髪も捨て、エドとしてカフェを開いたんだ」


 母親と二人暮らししていたときから、料理はいつもやっていたからと、エドが淋しそうに笑いました。




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― 新着の感想 ―
エドが王子なら腹違いの兄弟と先の諍いをしたという事。その元妻と関係を持とうという事。
なんか。滋味深いのがきた。
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