21:酔った勢いと初心な想い
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腕の中でスヤスヤと眠るアレキサンドライト。
幼いころの面影はしっかりとある。
だが、大人の女になっていた。
「…………くそ」
ベロンベロンだった。
アレキサンドライトの元夫を追い返したとき、既に理性は失っていたのに、更に飲んだ。めちゃくちゃ飲んだ。
そのおかげで役立たずになってくれて、後悔せずに済んでいるが……そのせいで生殺しを味わっている気もする。
どれだけ酔っていても、記憶は残るタイプだ。余計に最悪だった。忘れていたかった。
理性を吹き飛ばし、グラグラの言動をし、何度も唇を奪い…………アレキサンドライトの唇、柔らかかったな……って違う、そうじゃない。今考えるべきは、なぜこんなことになっているのかだ。
覚えているが、理解できない。
『えっ、あっ…………エド!? んっ、まって……あっ』
脳内でリフレインするアレキサンドライトの艶かしい声。首筋にいくつも残る赤い痕は……俺が付けたな。恥ずかしがって身体を捩るアレキサンドライトを抑え込んで…………くっそ。
バカだろ。俺。まじで!
アレキサンドライトが起きたら、謝ろう。
気持ちをちゃんと伝えて、確かめて、合意の上でコトに持ち込――――俺、まだ酔ってるな?
アレキサンドライトは起きないようだし、二度寝するか。
◇◇◇
どうしましょう。
起きたら誰かに抱きしめられていました。
たぶんというか、間違いなくエドなんですけれど、その……お尻になにか当たってまして。
経験はゼロですが、使用人たちの噂話とかとかで、そこまで初心でもないので、なにかというのは分かるわけで。
昨晩エドがなぜかズボンを脱ぎ、見せられました。いえ、タイトな下着はつけられていたので、そのものというわけではありませんが。
その、これ、アレなのですよね?
「ん……アレキサンド…………すまな……」
「え?」
謝られたような? と後ろを振り返ったのですがそこにはスヤスヤと眠るエド。
眼鏡をかけたままでしたので、なんとなく鼻やこめかみが痛そうに感じて、そっと外しました。
――――あ。
やっぱりあのときの騎士様。
眼鏡を外すと、記憶の中の騎士様そのままでした。眼鏡だけで、雰囲気がかなり変わるのですね。
長く黒い睫毛に縁取られたキリッとした目。濃い青の瞳。筋の通った鼻と、薄い……………………唇。
昨晩と朝方に、何度も重ねた唇から目が離せません。
キスとは、唇を重ね合わせるだけではないのは知っていますが、ああも深く淫らになるものだとは思いもよりませんでした。
大人の階段を何段も上がってしまいました。大躍進です。
「エド」
名前を呼ぶと、エドが眉間に皺を寄せましたが、起きる気配はありません。
「エド」
何度も名前を呼んでしまいます。
エド……貴方の本当の名前をいつか教えてくれる?
幼いころに王城で出逢ったあの日、エドは誰かに呼び止められて何かを話していました。エドではなかった。
エドワード? エドワルド? エドガルド? なんとなく似た音が記憶にあるのですが、思い出せません。
「エド、好きです」
「…………俺もだ」
「っ!? 起きてたんですか!?」
びっくりして飛び起きましたら、エドがクスリと笑いながらごめんと謝ってこられました。
「おいで。もう少しゆっくりしよう」
「はい」
腕の中に戻っておいでと手を広げられたので、自らエドの胸に飛び込みました。
「昔話を聞いてくれるか?」
「はい――――」