表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

20/27

20:はじめての――――




「アレキサンドライト」

「っ、酷いです。初めてを奪って、恋心も奪って、突き放して――――」

「は? 待て! はっ? はじめて? 初めてって何が」


 エドがテーブルからガバリと起き上がって、イスごと少し後ろに下がりました。

 なんでそんなに驚いているんですか。


「キスです」

「キス!? だって、アンタ……結婚して…………」


 白い結婚だったのです。

 唇にも肌にも触れることなど一度もありませんでしたし、結婚式もサインだけして簡素に終わったのです。理由は喪中だからでしたが、たぶん元夫の人は私に触れる気もなかったのだと思います。


「っ、待て……ヤバい。っあ……なんだよコレ…………」


 エドが顔を真っ赤に染めて、右手の甲で口元を隠しました。そしてジッとこちらを見つめては、ふよふよと視線を泳がせ、また戻ってきます。


「エドは遊びなれてそうですし、キスくらい普通のことかもしれませんけどっ」

「……遊びは……多少していたのは否定はしねぇが…………アンタをそういう相手とは見てねぇよ……すまなかった」


 エドが立ち上がって私の横に来ると、床に跪きました。

 

「一番大きなところは、嫉妬だった。あの男を『元夫』と呼んだのを聞いて、気が狂いそうだった。上塗りしたかった。俺だけを見てほしいという気持ちと、安全な場所で暮らしてほしいという気持ちが、ぐちゃぐちゃなんだ。俺はここを動けないから……」

「お店があるから、仕方ないとは思います」

「……店は、どこででも出来る」

「え?」


 エドが動けない理由は他にあるようです。その話はちょっと長いし複雑だから、今は横に置かせてくれと言われました。


「なんで、ここにいたら駄目なんですか……嫌いじゃないなら、側にいさせてくれてもいいじゃないですか」

「さっきも言ったろ、あの男がまた来る可能性は充分にあると」

「っ…………ご迷惑ですよね」

「迷惑じゃねぇ!」


 エドがひときわ大きく怒鳴り、なぜか立ち上がってズボンを脱ぎ出しました。意味が分かりません。

 ズボンをストンと落とした瞬間に慌てて目を隠したのですが、エドに「ちゃんと見ろ」と言われました。


「え、あ……その、立派だと」

「……そっちじゃねぇ。緩い生理現象なだけで、勃ってねぇ」


 そっちじゃないと言われて、中心以外のところに視線を向けると、エドの右太もも側面に肉が抉れたような大きな傷がありました。


「走れねぇし、戦闘も以前のような立ち回りはできない。数人で来られたら流石に厳しい。アンタを護れないかもしれない」

「だから、突き放したんですか」

「……あぁ。酔ってはいたが…………それは、言い訳だ。ただ、俺に意気地がなかっただけだ」


 エドがズボンを穿き直しながら、少し淋しそうに微笑んで変なもの見せてすまないと謝りました。

 こちらこそ、変な空気にしてすみませんでしたと謝ると、フハッと笑われてしまいました。


「なぁ…………やり直してもいいか?」

「なにをですか?」

「全部、最初から」


 エドがスッと右手を伸ばしてきて、私の頬を包みました。そして、親指でゆっくりと下唇をなぞりながら「いいか?」と聞いてきました。

 なぜか声が出せなくてコクリと頷くと、エドが真剣な顔に。


「アレキサンドライト、好きだ」


 軽く触れるキス。


「愛してる」


 もう一度。


「誰が来ても、何が来ても、俺が護る」


 ゆっくり深まりながら、絡まり、離れる。


「アンタを護らせてくれないか?」

「っん……ひゃい、おねひゃいしまふ」


 吹っ切れたように勝ち気な笑顔を零すエドがあまりにも眩しくて「カッコイイ」と呟いたのですが、それがエドに聞こえていたらしく、よかったと言われました。


「ベロンベロンだし、言動はまとまらねぇし、幻滅されても仕方ないと思ってた」

「弱さを見せてもらえるのも、嬉しいです」

「ん、そっか」


 素っ気ない返事でしたが、照れているのだと今なら分かります。だって、耳を赤く染めてまたキスをくれましたから。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

◇◆◇ 10/15発売! ◇◆◇


肉食令嬢は、肉のために結婚することにした。
書籍表紙


表紙&挿絵は『春名ソマリ』先生っ!
お肉お肉なクラウディアと、甘やかし上手なレオンがめちゃくちゃ幸せそうに描かれてるぅ!

そして、どえらくラブラブな挿絵に悶えてけろ!!!!

♣ カクコン10受賞作! ♣
KADOKAWA ビーズログ文庫様より、10/15 発売です。
ぜひぜひ、お手元に迎えていただけると幸いです。

販売店舗一例としてリンクボタンを置いておきます。


▷▶▷ KADOKAWA

▷▶▷ ビーズログ文庫

▷▶▷ amazon

▷▶▷ シーモア

― 新着の感想 ―
あ~!そのままお月様に飛ぶかと思った! (希望)
ズボンのくだりでさすがに仕事早すぎっしょ!◝( ꒪౪꒪)◜って思ったらソッチでしたかぁぁ アレキサンドライトちゃん、しっかり見ましたね( ≖͈́ ·̫̮ ≖͈̀ )ニヤァ とんとん拍子に両思いでよかっ…
先に感想書いたお二人に"いいね"を押したい!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ