19:めちゃくちゃ酔っている
エドに腰を抱かれながら部屋に戻りました。
とりあえず、部屋の中央にあるテーブルを挟み、二人で向かい合って座ったのですが、なぜが無言のままです。
「あの、エド?」
「ん、あぁ…………」
エドが逡巡したあと、ゆっくりと口を開きました。
「あの男には二度とここに来ないと誓わせたが、それでも何が起こるか分からない。だから、遠くにだな?」
「嫌です、って言いました」
「……あぁ」
また、無言。
エドは俯いてテーブルの上にのせている右手を見つめながら、拳を握ったり開いたりの繰り返しです。
「なんで、キスしたんですか……」
あのキスがなければ、こんなに苦しくなかったのに。そう思ってしまって、つい聞いてしまいました。
その瞬間、エドの顔が曇ってしまって、後悔することになりました。
聞くべきじゃなかった。
「ごめんなさ――――」
「アレキサンドライトは覚えていないかもしれないが」
昔、王城で出逢ったこと、ここで再会して囲い込んだこと、エドが隠していたらしい後ろめたい想いなどを教えてくださいました。
やっぱりあれはエドだったのですね。そして、エドも覚えていてくれたことに喜びが沸き上がりました。
でも、キスの意味は教えてくれないまま。
「……気持ち悪いだろ?」
淋しそうに微笑むエド。今にも消えそうな雰囲気で、笑うのです。
「そう聞けば、アンタは絶対に『いいえ』と答える。そう分かっているのに、聞いてしまう最低な人間なんだよ」
「エド?」
突き放すような態度のエドに違和感を覚えました。なぜなのかと考えていて、ふと気が付きました。
エドは昔も今も、いつでもまっすぐに私の目を見てくれていたのに、いまは視線が合わないのです。
自信がないような、不安しかないような。
そう、まるでエドと出逢う前の私のような。
「なにに怯えているのですか?」
そう聞くと、エドが「クソッ」と吐き捨てて、テーブルに突っ伏してしまいました。
「…………カッコ悪ぃ。めちゃくちゃ酔ってんだよ。マジで、考えがまとまらねぇ。それなのに据え膳に釣られてここに来て、芋引いてんのに、またカッコ付けて……アホみてぇだ」
「そんなに酔ってるのに、なんで……?」
「アンタが好きだからだよ」
突っ伏したまま、くぐもった声で言われた言葉に、心臓が破裂するかと思うほど脈打ちました。
バクンバクンと鳴り止まない心音。エドに聞こえてしまうんじゃ?と心配になるくらいに大きい音です。
「好きな女が目を腫らした状態で、部屋に来て上目遣いで見てくる……部屋に入れたら、襲わねぇ自信はないんだよ。今だって、チャンスさえあればとか考えてる」
エドがゆっくりと顔を上げて、艶っぽい視線を送ってきました。それだけで、顔に熱が集まります。
「そういう顔だよ。薄く唇開けて、甘い息を吐き出して、誘ってくる」
「さっ、誘っ!?」
「分かってるよ。アンタはそんなつもりじゃないって」
ホッとしました。もしかして、わざとそうしていると思われているのかと。
「好きだから、キスしたのに……なんで突き放すんですか」
「好きだからだよ」
「分かりません」
「……だよな。犬に噛まれたと思って忘れてくれ」
エドはそのことについて、私に理解してほしいとは思っていないらしく、ただ「すまなかった」と繰り返しました。
謝られたくないのに。
後悔するようなことだったの?
また、涙が溢れ出てしまいました。