12:どこかで?
エドと二人並んで調理台で朝食。
彼が作ってくれたパニーニは、売りもののように美味しかったです。カフェの店主なんだから当たり前なんですけどね。
「んっ、サクサクで美味しいです。こんなに口当たりが軽くなるんですね」
「あぁ。そのままだとわりともっさりしてるだろ?」
「はい」
なので、あの家にいたときは、いつもスープに浸して食べていたのです。
使用人の食事は家主が用意するのですが、元夫の人は無駄金だと言って、ハード系の一番安いパンとスープしか食材の使用を許可していませんでした。
皆で少しのお金を出し合って、何かしらの食材を用意していました。
あのころは、妻という立場だと思っていたので、私が出すと言ったことがありました。でも皆が仲間なんだから同じ金額でいいと言ってくれたのです。
凄く優しい人たちばかりです。
出来ることなら、なんとかしたかったのですが…………あの人に対抗する力は私にはないのですよね。皆を助けられない、それだけが悔しいです。
「どうした?」
数日前のことなのに、昔のことのように感じてしまうほど、今の生活を堪能しているようです。
感傷に浸っていたと言うと、エドがポンポンと頭を撫でてくれました。
「うまいもん食って、温かいもん飲んで、前を向いてりゃ何とかなる」
スープを飲めと言われて、口をつけました。
「温かいです」
「ん。それに美味い」
「ふふっ。ありがとうございます」
のんびりと朝食を摂りながら、お互い気になっていたことの話に。
エドに、昨日は何をしていたのかとか、ドレス店ではどんな仕事を受けたのかと聞かれました。
私は、エドの普段の仕事や一人で切り盛りするのは大変じゃないのかとか、聞いてみたりしました。
「まぁ、慣れたかな」
「何年くらいやっているのですか?」
「今年で八年目だな」
「その前は何を?」
そう聞くと、今まではわりと笑顔で饒舌に話してくれていたのに、僅かに表情が暗くなりました。
「不躾に聞いて失礼でしたね。申し訳ございません」
「いや……まぁ、なんだ…………戦士みたいなものをやっていたな」
――――戦士、みたいなもの?
エドが俯いて右膝を撫でていました。もしかしたら、戦闘職のようなことをしていて、脚の怪我のせいで若いのに引退することになったのかもしれませんね。
「……まだ、痛みますか?」
「天気が悪いときとかは、少しな。普段はちょっと動かしづらいのと、引き摺ってしまう程度だ」
「酷くは痛まないのですね? よかったです」
「アンタ、優しいな」
それを言うのはこちらだと思うのですが。
身元の不確かな私を店の上に住まわせてくれて、色々と気にかけてくれて、こうやって一緒に食事をしてくれて。
「エドのほうが、優しいですよ?」
「ハハハッ!」
エドが少年のような顔で、笑いました。たぶん三十代くらいだとは思うのですが、なんだかかわいいです。
「くっ……ハハハハハッ。アンタ本当に人がいいよな」
何が面白かったのか、エドは目尻に涙を浮かべています。
エドがさらに笑いながらメガネを外し、目尻を拭っていました。
――――あら?
メガネを外したエドのお顔を見て、凄く印象が変わるなと思いました。
普段は、黒縁メガネで黒い短髪の男性としか認識していませんでしたが、メガネがないエドは美麗系の王子様のような印象です。それに、どことなく見覚えのあるような?
「エド……昔、どこかでお会いしたこと、ありましたっけ?」
妙に気になって聞いてみましたら、エドが素早くメガネを掛けて「気のせいだろ」と素気なく言われてしまいました。





