10:明日の朝は
部屋に戻り、スープ作りに取り掛かりました。といっても、材料を細切れにして煮込むだけなのですが。
「んっ、美味しい」
味見をして完成。明日の朝に再加熱すれば直ぐに食べられます。
下のカフェに行くと、夕食を摂りにきた人たちで賑わっていました。
この数日で、毎日来ているおじさんやお姉さんたちとも軽く挨拶するようになりました。
「迷ってるの?」
「はい」
メニューを見てどれにしようかなと悩んでいると、あれが美味しい、これが美味しいと色々教えてくださいます。
今日はお姉さんおすすめのトマトバジルリゾットとほうれん草とベーコンのソテーを頼みました。
「ちょっと味変したいときに、すっごく合うのよ!」
「え? 混ぜちゃうんですか?」
「そうそう、見た目はちょっとアレなんだけどね。美味しいは正義なのよ」
美味しいは正義、いい言葉です。
食事を終え、部屋に戻ってのんびりしていましたら、部屋のドアがノックされました。
「はーい。あ、エド。どうぞ」
パタパタ走ってドアを開け、中に案内しようとしましたら、また警戒が足りないと怒られてしまいました。
「部屋に来るのはエドくらいですし」
「……ったく。ここでいい」
お店はもう閉めているようですし、なにか用があって来たのなら、中で座って話せばいいのにと思うのですが、遠慮されてしまいました。
仲良くなれてきたと思っていたのですが、まだまだだったようです。
「何かご用なのでは?」
「あぁ……明日の朝食だが、下で一緒に食べないか?」
「まぁ!」
まさか朝食のお誘いとは思ってもいませんでした。さっきはまだまだだと思いましたが、もしかしてけっこう仲良くなれているのかも?
朝食をご一緒するのはもちろん大歓迎なのですが、スープを作ってしまいましたし、パンも買っています。お互いに持ち寄りといった感じで良いのでしょうか。
「パンはパンだけで食べるのか?」
「はい! スープに浸すと柔らかくなって美味しいんですよ」
エドがボソリと呟いた「貴族らしからぬ飯だな」というのが聞こえてしまいました。しかも、なんだか不憫なものを見るような目をしています。
念のため、もう一度とても美味しいのだと伝えましたが、今度はなまぬるーい感じに微笑まれ、頭をよしよしと撫でられました。
「もぅ、子ども扱いしないでくださいっ」
「んはははっ! すまんすまん。じゃあ、明日の朝な」
エドが去り際に「おやすみ、いい夢を」と言ってくださいました。幼いころ、お母様がよく言ってくれた言葉。
なんだか、今日はとてもよく眠れそうな気がします。





