三話
流れていく景色の中で、白い壁は幾つも見える。
その連続の中で突出したものを期待するが、何もないのだからその期待も無為である。
道をいく人々のどれもが滑っていく船に注目している。
その人々のなかで一際目立つのは、やはり小さな人の波である。
流れていく人々に注目され、また注目し返しているのは一重にK・V自身であった。
船を叩く水を見る。
すると、緑色に近い水は船が進むにつれ、濁って泡立っていく。
それに一度K・Vは手を伸ばそうとし、すぐにやめた。
船の進む先には小さな橋が架かっている。
レンガ造りの橋は、此処から見ると空全体を支えているように見えた。
懐中時計を見る。今朝はネジを回し忘れていたらしい。
一つ溜息を吐いて、やはり白壁に視線を戻す。
「珍しいものですかね」
水夫はオールを止めることなく問いかける。
それを見ると、一等真面目そうな服を着た水夫である。袖の奥には黒々した毛が見えた。
「そういったわけではないよ。ただ見るものがなくてね」
「それでしたら、もう少しで領主様の館がご覧になられますよ」
実際水夫の言う通りで、十分も経ったところで一際大きな屋敷が見える。
煩い装飾にまみれた屋敷の門は開け放たれ、その庭園の青々とした木々が見て取れた。
「どうでしょう。素晴らしいものでしょう」
水夫は言う。
それに、K・Vは頭を縦に振ることはなかった。
これは魅了されていたためであろうか。あるいはもっと別な理由のためだろうか。




