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二話

 ネズミの走る音というのは、結局のところ誰にとっても不愉快な音のことだろう。

 彼の動物はその不細工な顔もそうであるし、疫病をばら撒くこともある害悪であろう。


 K・Vは眼下の矮小なネズミの死体を、つま先で蹴とばし歩く。

 路地にはただ死んだネズミと、それを貪る小太りを過ぎたまたもの──またこれもネズミであるが──ばかりが跋扈していた。


 K・Vは依然として眼下を気にしながらここに溜息をついていたに違いない。

 流行りの、馬鹿げた詩人はきっとこの路地を牢屋だと形容するのだろうが、実際のところ大差はない。

 現実に、牢獄なんてものは情欲であるとか、馬鹿げた欲望ばかりに支配されているもので、結局のところはここもそれと言っていい。


 此処にいるのはどれもがネズミでしかない。

 下女に勧められた二番街はまさにK・Vが望んでいた土地に他ならなかった。


 遂には一匹の生きた、肥え過ぎたネズミを踏み潰し、路地を抜けて一つの店へと入る。

 朝からやっている酒屋というのはどうにも珍しく思えるが、ここ二番街では一般的であった。


 朽ちかけの床板に足裏を擦り付ける。

 床板の一端には、黒い、滑らかな、縮れ毛が引っ掛かっている。


 それを眺めてからK・Vはカウンターの一番右の席に座る。

 汚い机を一度なぞって、それを服の端で拭う。

 彼の服には埃のあとが付いた。


「やあ、主人。何かお勧めな酒はあるかい」


 こちらに来るように、と手を招く。

 似合わない笑顔を張り付けた小男は、一本の瓶を持っていた。


「それは?」

「ええ、コニャックで御座います」


 コニャックと言えば高い酒であるから、それに満足いったようにK・Vは頭を縦に振った。

 やはり満面の笑みの主人は、水垢が目立つグラスにそれを注ぐとK・Vの前に置く。


 それを彼は一口飲み込む。

 粘土のような味である。


「これはどこのコニャックだい」

「フランドルの方で卸したものらしく、それ以上はどうも」

「そうか、よく分かった」


 グラスを机に戻す。

 水面は数度揺れると、すぐに凪いでしまった。


「お口に召さなかったでしょうか?」

「ああ、いや。うまいよ。それで、代金だがいずれここにガン・デレという男が来ると思う、そいつにつけといて貰えないだろうか」

「ええ、ええ、勿論です」

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