第10話「2人で育てよう」
それは、静かな朝だった。
双子の出産から数週間が経ち、春日井家にもようやく“日常”が戻ってきた。
育児と仕事、夜泣きとミルク、洗濯物の山とお風呂の順番――
どれもが完璧とは言えない。それでも、互いに歩幅を合わせながら、彼らは前に進んでいた。
そして、真希の職場復帰初日。
社内ではサプライズのように、ふたりの机の上にカードが並んでいた。
「おかえりなさい、春日井課長」
「双子ちゃん、ご出産おめでとうございます!」
「未来ちゃんと莉嘉ちゃん、可愛い名前ですね」
「また一緒にお仕事できるの嬉しいです」
「そして結翔くん、お兄ちゃん頑張ってるって聞きました!」
「高槻、よくやったな。うちの部署の父親代表だ」
――差出人は、進藤あかり、赤井美波、村瀬翼、瀬川陽翔、橘理沙副社長、そして氷室結衣社長。
彼女たちが見守ってくれていたことが、胸にしみた。
「……泣いちゃダメね。アイライナー取れるわ」
「それ俺の前で言う? 可愛いけど」
「静かに。ここ社内」
「誰もいないけど?」
ふたりは、周囲に気配がないことを確認すると――
そっと資料室の奥で身体を寄せ合った。
「……んっ……悠真……」
小さく洩れる声。
息を交わすような深いキス。
短くないブランクを経て、また“職場のふたり”に戻ったけれど。
心のどこかには、今も確かに“夫婦としてのふたり”が息づいていた。
•
その日の夕方、ふたりは社内で別々に退勤する。
真希は保育園へ結翔を迎えに、
悠真はそのまま1時間だけ残業。
スーパーで悠真が買った野菜とお肉は、帰宅した真希が慣れた手つきでフライパンに乗せた。
結翔はテレビのバラエティ番組に釘付けで、未来と莉嘉はリビングのマットの上でご機嫌な表情。
「……にぎやかだね」
「うるさい、の間違いじゃなくて?」
「うるさくて、しあわせって意味」
そんな他愛ない会話に、真希はふっと笑った。
•
夕飯を食べ終え、風呂を済ませ、子どもたちが順番に眠りについた夜。
寝室の灯りが落ちた後――
「……真希さん」
「ん……?」
悠真が、そっと彼女の肩を抱く。
真希はその腕に身体を預け、微笑んだ。
「……ねえ、もう……いいかな」
「なにが?」
「もう、子どもは……ここまでで。
結翔と、未来と、莉嘉――この三人を、ふたりでちゃんと育てていこう」
「……うん」
答えを待たずに、真希の唇が重ねられる。
甘く、長く、確かめ合うようなキスだった。
夜の静けさに包まれたベッドで、
ふたりは互いの呼吸を感じながら、身体を重ねていく。
繋がる指。
擦れ合う肌。
甘い吐息と、途切れ途切れの言葉。
「……っ、悠真……」
何度も確かめるように、ふたりは交わり、ひとつになった。
それは、欲望でも、衝動でもない。
“約束”のような、静かな愛のかたちだった。
深く、深く、絡み合った後――
真希は彼の胸に顔を埋めて、囁くように言った。
「これからも…… “2人で” 育てていこうね」
「もちろん」
小さく笑った悠真が、再び唇を重ねた。
•
そして、翌朝。
キッチンに立つ悠真と、隣で娘たちに哺乳瓶を準備する真希。
絵本を手に「読んでー!」とせがむ結翔。
冷蔵庫には、結翔が描いた家族5人の絵が貼られていた。
パパとママ。
自分と、小さなふたりの妹たち。
――その絵には、大きな文字でこう書かれていた。
『ずっといっしょの、わがや』
今日も、明日も、きっとこの先も。
彼らは“ふたりで育てる”という選択を、愛情のかたちとして重ねていく。
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