第8話「はじめまして、妹ちゃん」
――それは、予定よりも2週間早い朝だった。
外はまだ夜が明けきらず、薄明の空に雲がかかっている。
真希が布団の上で小さく呻いたのは、午前4時過ぎ。
「……あ……痛っ……?」
鈍い痛み。下腹部に波のような感覚。
眠気を吹き飛ばすような冷たい予感に、真希は身体を起こした。
――そしてすぐに気づく。
シーツの下、温かい感触と濡れた感触。
「……まさか、これ……破水?」
静かに、しかし確実に現実を突きつけられる。
予定日までまだ2週間。だが双子の妊娠は、早まることがあると聞いていた。
――そして今、まさに“その時”が来たのだ。
•
「悠真っ……!」
寝室の隣で仮眠していた悠真は、妻の叫びで飛び起きた。
状況を一瞬で理解し、即座にバッグを掴む。
「よし、行こう。タクシー呼ぶから、ゆっくり立って。荷物は全部準備してる」
その冷静さは、まるで何度も練習したかのようだった。
いや――実際、何度も想定し、備えてきたのだ。
父親として、家族の一員として、そして何より“夫”として。
•
そして、数時間後――
まだ朝焼けが差し込む前の分娩室で、静かに、けれど確かに――ふたりの命がこの世界に生まれ落ちた。
「……おめでとうございます。女の子、おふたりです」
真希の目尻に、涙が浮かぶ。
初めての泣き声。
初めての呼吸。
そして、保育器の中で眠る小さな小さな手足。
「……ふたりとも、よく……来てくれたね……」
隣で見守っていた悠真が、真希の手を強く握る。
彼の目にも、涙が浮かんでいた。
「ありがとう、真希さん……ほんとに、ありがとう……」
「名前……決めてたのよ。ふたりとも、“未来”が見えるようにって……」
「……うん」
•
後日、NICU(新生児集中治療室)のガラス越しに、ひとりの小さな男の子が静かに佇んでいた。
――結翔、3歳。
白い小さな毛布に包まれたふたりの赤ちゃん。
名前は、未来と莉嘉。
「……ちっちゃいね……でも、なんか、つよそう」
真希が後ろからそっと言った。
「あなたの妹たちよ。お兄ちゃん、よろしくね?」
「うん」
小さな声、小さな手。けれど確かな“誓い”。
結翔は、小さく頷いた。
大人たちが思うより、ずっと早く。
ずっと前から、この日を待っていたように。
「“お兄ちゃん”って呼ばれるの、楽しみ」
「きっと未来と莉嘉も、あなたに会えるの楽しみにしてたわ」
「……じゃあ、まずは名前、教えてくるね」
結翔は、そっとガラス越しに手を振った。
「ねえ、未来ちゃん。莉嘉ちゃん。……ぼく、お兄ちゃんだよ。今日から、ずっと守るからね」
小さな命と、小さな手と、小さな誓い。
春日井家は、ついに5人になった。
“生まれる”という奇跡を、
“迎える”という愛情で包み込みながら――
新たな物語が、ここから始まっていく。
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