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『40歳OLと高校生、世間では“母子”、本当は恋人――バレたら即終了の年の差ラブコメ、始まります。』  作者: AQUARIUM【RIKUYA】
シーズン5《社会人5年目&家族拡大 第二子妊娠・出産に家族の試練と再生編》
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第6話「切迫早産の影と、家族の選択」


「……このままだと、かなり危険ですね」


担当医の声は、静かだった。

淡々と語られるその響きは、だが、真希の胸の奥を音もなく貫いていく。


妊娠24週。

双子の胎児たちは、健やかに成長していると信じて疑わなかった。

それが、今日――何気なく受けた内診で、その言葉を聞かされるとは。


「子宮頸管が短くなってきています。この時期の双胎妊娠では珍しくない所見ですが……正直、働きながら乗り切るのは難しい状況です」


「……つまり?」


「絶対安静です。自宅療養……いえ、むしろ入院を強く検討してください。

 このまま無理をすれば、早産のリスクは跳ね上がります。……赤ちゃんたちが、この世界に出てきてしまう」


“出てきてしまう”――

まだ、出てこられては困る。

まだこの小さな命たちは、お腹の中で育たなければならない。


真希は、ゆっくりと息を吸った。

冷静に見せようとしたが、指先がわずかに震えていた。


「……わかりました。入院も含めて、考えます」


医師はその返事をじっと見つめたあと、こう言った。


「ご主人とよく話してください。双子妊娠は、支える側の協力が何より大切です」


病院の帰り道。

いつもなら寄るはずのオフィスにも、近所のスーパーにも立ち寄らず、

真希はタクシーを呼び、そのまま自宅マンションへ直帰した。


そして夜。


玄関の扉が開く音に、真希はソファから身を起こす。

帰宅した悠真は、スーツの上着を脱ぎかけたその手を止めた。


「……真希さん?」


「……切迫早産って、診断されたの」

落ち着いた声だった。

だが、その一言の重みは、部屋の空気をきりりと張り詰めさせた。


「子宮頸管が短くなってて……“できれば即入院”って言われたわ」


一瞬の沈黙。

その後、悠真はごくゆっくりと口を開いた。


「……仕事、辞めようか」


「……なに、言ってるの?」


真希は目を丸くした。


「悠真、今、営業で大きなプロジェクト抱えてるでしょう。

 そのタイミングで辞めるなんて、あなたの将来が……」


「でも、それより命の方が大事だろ? 君も、赤ちゃんたちも」


真希の言葉を遮るように、悠真が強く言った。

その声は、真剣だった。

言葉の隅に、少しの迷いもなかった。


「俺が家にいれば、君の看病もできるし、結翔の世話もできる。

 無理させたくないんだ。……大事な人たちに、何かあってからじゃ、遅いから」


その一言に、真希は言葉を失った。

彼は、本気で“全てを手放してでも守る”つもりでいた。


社会人5年目。

ようやくひとつの軌道に乗り始めたキャリア。

彼が積み上げてきた時間や努力を思えば、その選択は、あまりに重すぎる。


「……馬鹿ね」


気づけば、頬を一筋、涙がつたっていた。


「そんなの……嬉しいに決まってるじゃない。……でも、苦しくなるのよ」


「真希さん……」


「辞めないで。でも、育休をとって」


「え……?」


「三ヶ月でもいい。……結翔の朝ごはんも、登校準備も、全部“任せられる人”が必要になる。

 私が入院になったら、あなたにしか頼めない」


「……うん」


悠真は、少しだけ潤んだ瞳で、力強く頷いた。


「ありがとう。ちゃんと、話してくれて」


「こちらこそ……ちゃんと、言ってくれてありがとう」


ふたりの間にあった“選択肢”は、いま確かな“決意”へと変わった。


その翌朝。

悠真は、営業本部長・柳瀬貴文のもとへ足を運んだ。


「……高槻、話があるんだろう?」


柳瀬は、すでにすべてを見通していたように言った。


悠真は、まっすぐ頭を下げた。


「妻が双子を妊娠しています。

 昨日、切迫早産と診断され、即入院の可能性もあります。

 そのため、数ヶ月間の育児休業を申請したいと考えています」


会議室の空気が、すっと静まった。

数秒の沈黙の後、柳瀬は短く、しかししっかりと頷いた。


「よく決断したな。……家族を守れる男は、組織にも必要だ」


その言葉に、悠真の胸が熱くなった。


社内には動揺もあった。

「高槻、結婚してたの!?」

「しかも、春日井課長と!?」

「双子って……本当かよ!?」――


驚き、ざわつき、憶測、そして噂。

だが悠真は、すべてを受け止めた顔で言った。


「必ず戻ってきます。

 ……でも今は、“家族を守ること”を優先させてください」


それが、彼の――

ひとりの“父”としての、第一歩だった。



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