第3話「家族会議、結翔は知っている」
夜のリビング。
白い天井に、プロジェクターの光がやわらかく揺れている。
春日井家では、週に一度“家族だけの映画ナイト”がある。
この日も、真希はソファにクッションを置き、悠真はその隣で息子・結翔と一緒に、ポップコーンの袋を取り合っていた。
「ねえママ、今日は『ポケ忍』観ていい? 絶対泣かないから!」
「うーん……前回も“泣かない”って言って、途中で鼻水ぐすぐすだったじゃない」
「だって……ポケ忍死ぬんだもん……」
「ネタバレ……」
悠真が苦笑して呟くと、結翔は口を尖らせ、ふて寝のように母の膝へ頭を乗せた。
そうして、いつも通りの夜が過ぎていく……はずだった。
が、その時――
「ねえ、ママ」
結翔が、不意に言った。
「ママ、おなかに……赤ちゃんいるでしょ?」
ピタリと、空気が止まった。
ソファに沈んだ真希の身体がわずかに揺れ、
悠真が思わず、ポップコーンの袋を落としかけた。
「な、なんでそう思うの……?」
ごまかす声になってしまった。
けれど息子は、どこか不思議な眼差しで、彼女の顔を見つめていた。
「うーん……ママのおなか、ちょっとふっくらしてるし、最近よく眠そうだし……
あとね、ママ、時々“おなかの中の子”に話しかけてるよね? 小さい声で」
(……見てたの……?)
「……結翔、すごいな……」
悠真が小声で呟く。
小さな子どもの勘――それは時として、大人の隠しごとをあっさりと見抜いてしまう。
「そっか……ママ、おなかに赤ちゃんがいるんだね?」
結翔の言葉には、不安も、嫉妬も、混じっていなかった。
ただ、純粋な確認だった。
真希は少し目を伏せたまま、ゆっくりと頷いた。
「うん。ママのおなかの中にはね、赤ちゃんが……いるの。しかも……ふたり」
「……ふたり!?」
結翔の目が、まんまるに見開かれた。
「じゃあ、ぼく……お兄ちゃんじゃなくて……お兄ちゃんズになるの?」
「……なるほど、その発想はなかったわ」
真希がくすりと笑うと、結翔も釣られて笑い出す。
「男の子? 女の子? どっち? 名前決めてる?」
「まだぜんぜん。でも、結翔と一緒に考えられたら嬉しいな」
「ほんと!? よし、ぼく、今夜からお兄ちゃんトレーニングする!」
結翔は勢いよくソファを飛び降り、自室に走っていく――
と、廊下の途中で戻ってきて、母のお腹にそっと耳を当てた。
「ふたりとも……ママのおなか、あったかいね」
その言葉に、真希は涙がにじむのをこらえられなかった。
――家族として、いま、新しい一歩を踏み出した。
守る命がひとつから、ふたつに。
そして、家族の“かたち”も、またゆっくりと、変わっていく。
その夜、真希と悠真は静かに話し合い、
翌朝――
彼女は、信頼できる数人の仲間たちに向けて、短く、けれど真剣に告げた。
「……いま、お腹の中に、双子を授かっています。まだ不安も多いけれど……どうか、力を貸してください」
進藤あかりが目を見開いた。
赤井美波は深くうなずき、村瀬翼は少し涙ぐんだ。
氷室結衣社長は、短く一言、「報告、ありがとう」とだけ。
橘理沙副社長と瀬川陽翔は、それぞれの立場から具体的なサポート案を即座に出し始めた。
真希は、その反応を見ながら思った。
――自分は、独りじゃない。
ただし、これから先。
「社外」と「一部の社内」には、引き続き何も知らせるつもりはなかった。
静かに、慎重に、5人家族の未来を守るために。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます!
もしこの物語に少しでも「面白い!」と感じていただけたなら——
ブックマーク & 評価★5 をぜひお願いします!
その一つひとつが、次の章を書き進める力になります。
読者の皆さまの応援が、物語の未来を動かします。
「続きが気になる!」と思った方は、ぜひ、見逃さないようブックマークを!
皆さまの応援がある限り、次の物語はまだまだ紡がれていきます。




