第1話「ふたりめじゃなかった」
「……うそ、でしょ」
その日、春日井真希――45歳。
年齢のこともあって、第二子妊娠の可能性を半信半疑で受け止めていた彼女の目に、映像は明瞭すぎた。
エコーに浮かび上がったのは、はっきりとふたつの丸。
心拍が、ふたつ。
胎嚢が、ふたつ。
「……ふたり、ですか?」
「はい。おめでとうございます、双子ちゃんですね」
にこやかに答える医師の声が、真希の背筋を一瞬にして凍らせた。
高齢妊娠、というだけでも十分なプレッシャー。
その上、双子――?
となりで手を握っていた夫、悠真――25歳の青年が、まるで少年のように目を丸くしている。
「ふ、双子って……ほんとに……!?」
「本当です。こちらが第一児で、こちらが第二児。今のところ順調ですが、45歳というご年齢ですから、ハイリスク妊娠となります。無理は禁物ですよ」
「……はい……」
そう答えながら、真希は自分の年齢がぐるぐると頭を回っていた。
彼女は今、45歳。
都内の一流企業で課長職を務めるワーキングマザー。
第一子・結翔を出産したのは10年前、35歳のときだった。
その時点でも高齢出産だと散々言われ、夜泣きと母乳育児でボロボロになった日々。
ようやく子育ても落ち着き、仕事と家庭のバランスが整ってきたと思った、矢先の――まさかの双子妊娠。
(……これはもう、人生計画どころじゃないわね)
だが、ふと隣を見ると――
「やばい、可愛い……すでにもう可愛い……」
悠真がエコー写真を食い入るように眺めていた。
真希が呆れるほどに、彼は純粋に喜んでいた。
「名前どうしよう。女の子かな、男の子かな、どっちもかな……」
「まだ早いから。まだ“妊娠確定”したばかりなの」
「でも、すごいよね。双子だよ? 二人もいっぺんに来てくれるなんて……」
あぁ、この子、ほんとに“父親”の顔になったな、と真希は思った。
10年前、自分がシングルマザーとして結翔を育てていた頃、まさか20歳年下の部下と恋に落ち、秘密の結婚生活を始めるとは夢にも思わなかった。
けれど今では、こうして、第二子――いや、第三子も――ともに迎えようとしている。
「怖い?」
「……ちょっとね」
「俺は、嬉しい」
「知ってる。顔に書いてあるわよ」
「ふたり分、たくさん守らなきゃな。結翔にもちゃんと伝えよう」
「そうね……あの子、喜ぶかしら。『きょうだい欲しい』って言ってたけど……いきなり“ふたり”って、驚くかも」
「俺らが驚いてるからね……」
ふたりでくすくす笑い合いながら、病院の廊下を歩く。
不安もある。年齢のこと、仕事との両立、身体の限界。
だが、それでも――いま、彼女の胸に確かに芽生え始めていた。
新しい命を迎える“覚悟”と、愛おしい予感。
「また会えるね、赤ちゃんたち」
真希がそっとお腹に触れたその手に、悠真の手が重ねられる。
「……もうすぐ、5人家族だね」
「ほんと、人生って、計画通りにいかないわね」
「でも、そのほうが面白いって思ってるの、真希さんでしょ?」
――そうかもしれない。
女として、母として、そして“年上の妻”として。
45歳になった春日井真希の人生は、いま再び、大きく動き始めていた。
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