番外編⑤:社員探偵団、春日井課長の秘密を暴け!
春日井真希が職場に復帰して、はや三週間。
その存在は以前と変わらず“バリキャリで頼れる上司”だったが――
ある日、社内の給湯室で、妙な噂が囁かれ始めた。
「ねぇ、春日井課長……ママなんじゃないかって噂、知ってる?」
「えっ?ママって、あの“ママ”?子持ち!?」
「うん。ほら、この前の会議、育児系プロジェクトにやたら反応してたし……」
「それにさ、営業の悠真くんと、同じ日に長期有給取ってたでしょ……?」
「つまりこれは――社内恋愛……!? 隠し子……!? えっ、もう結婚してる!?」
──その日から、女子社員たちは“あるチーム”を結成することとなる。
社内秘密探偵団《Project P》
※P = パパ・ママの可能性を探れ!
◆
【12:31 給湯室横 第1会議室】
「では、調査会議を始めます。司会は私、秘書課の三浦遥です」
真剣な眼差しをした三浦遥のもとに集まる女子社員たち。
・商品開発:中園恵里
・経理:谷口彩乃
・総務:篠原結
「まずは春日井課長の周辺から攻めましょう。誰か、怪しい行動を見かけた人は?」
「この前の昼休み、マグカップが“こどもちゃれんじ”の限定キャラだった」
「え、それって確定案件では?」
「あと、営業の悠真くん。ロッカーに“赤ちゃんおしりふき”入ってたって噂……」
「完全にアウトじゃん!!」
ホワイトボードには、《人物相関図》が赤マーカーで書き込まれていく。
そこには《春日井真希 ⇔ 高杉悠真(?) ⇨ 子ども(1名?)》と大きく記されていた。
◆
その日午後。
「……遥、なんかその格好……探偵ドラマ見すぎた?」
村瀬翼がツッコミを入れたのは、
トレンチコートに帽子、サングラスという“謎の変装姿”で歩く三浦遥。
「黙って。調査中なの。……ねぇ村瀬くん、あなたこの2人と親しくなかった?」
「いや、まぁ、別に普通に仲良いけど……(って、やばい、このパターン)」
その直後、翼は会議室に連行され――
「あなたは、春日井課長と高槻くんの関係をいつから知っていたんですか?」
「……どこの取り調べ室!?」
一方で、進藤あかりもターゲットにされていた。
「なんであかりさんのSNSだけ“お子さま向けカフェ情報”の投稿が多いんですか?」
「え、それは……趣味です……(真希の影響だなんて言えない)」
──あかりと翼は、“真相を知る者”として全力でしらを切ることになる。
◆
【15:22 営業部ロッカー前】
「……うわ、マジでおしりふきあるじゃん」
中園恵里が、ロッカーのすき間から見つけた“それ”は決定打になりかけた。
「ちょ、勝手に人のロッカー開けないって!情報倫理どうなってんの!?」
悠真が飛んできて、慌てて蓋を閉じる。が、空気はすでに尋常ではない。
「高槻くん……まさか、君が……」
──そのとき、神の声が割って入った。
「それ、俺のです」
横から手を伸ばしたのは、陽翔だった。
「何言ってるのよ氷室さん。あなた、子どもいないでしょ?」
「いやいや、違うって。“社内ドラマ企画”のモニター資料でさ。
“育児体験セット”をあえて私物に入れておいて、リアリティチェックしてるんだよ」
「……ドラマ企画……?」
「うち、コラボ案件あったでしょ。“育児現場のリアルを描く企業連携ドラマ”」
「え、それ、春日井課長も協力してるって聞いたことあるかも……」
(陽翔、お前……救世主かよ……!)
◆
数日後。
社内の会議室に貼られていた《Project P》のホワイトボードは、
こっそり剥がされ、コピーだけがファイルとして保管された。
その表紙には――
『春日井課長と高槻くん、謎の接点記録ファイル』
(※未解明。現在は“ドラマ資料説”にて納得済)
真希がふと、そのコピーの存在を知ったのはまた別の日。
「……悠真」
「ん?」
「私たち、こんなにも探られてたのね……」
「“探偵団”ってネーミングが可愛い分、逆に怖い……」
◆
──こうして、社内探偵団《Project P》は解散となった。
が、その“好奇心”と“鋭い観察眼”は、いまもルクシア社内に生きている。
真希は言った。
「私は隠しきってなんぼの“課長”だから」
悠真は笑った。
「俺は一生、証拠を残さない“パパ”でいなきゃいけないんだな」
そして、結翔は今日も――
“パパ”でも“ママ”でもない、喃語でにこにこ笑っていた。
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