番外編②:それでも、私は“春日井課長”です
──春日井真希、職場復帰初日。
復帰の朝は、まるで新卒時代を思い出すような緊張感だった。
一歳になった息子・結翔を悠真に託し、
育休明けのスーツに身を包み、ヒールの感覚を確かめながら出勤する。
「……ただいま、です」
自動ドアをくぐると、オフィスにはいつも通りの空気。
なのに、その空気のなかに“視線”が混ざっているのを真希は感じていた。
「春日井課長!お帰りなさい!」
「おかえりなさーい!」
笑顔で迎えてくれる後輩たちのなかに、妙に目を光らせる数人の女性社員がいた。
(……これは、“勘のいい女たち”の目……)
予感は当たる。
◆
「ねぇねぇ、春日井課長って、育休中に子ども産んだってホント?」
「え、それどこ情報?」
「いや、さっき会話のなかで“おむつ”って単語が……!」
──昼休み、給湯室にて。
ホワイトボードに“産後の骨盤ケア”のメモを貼っただけで、
「子持ち確定」と判断される、女たちの洞察力は伊達じゃない。
しかも。
「春日井課長の復帰日と、営業の悠真くんが有給取った日が同じなんだよねぇ〜?」
「しかも最近、あの2人、昼休み一緒にいなくなったこと多くない?」
「まさか……できてる?しかも、子どもまで!?」
──すでに社内女子たちによる、“春日井真希=ママ疑惑”のプロファイリングは佳境を迎えていた。
◆
一方その頃。
「課長、お戻りになって嬉しいです。現場もピリッと締まりますし」
と、部下の佐野が真面目な顔で書類を差し出す。
「ああ、ありがとう。……ん?」
提出書類のタイトルには、こうあった。
『時短勤務制度の申請手順案(仮)』
(え、これ……私のため?)
視線を上げると、佐野が“母としての課長”に対する尊敬を込めた瞳でこちらを見ていた。
「……課長、僕、尊敬してるんです。
育児しながら、ちゃんと戻ってきてくれるなんて……僕の姉も働くママで、」
「ちょ、ちょっと待って佐野くん!? 私、まだ“何も”言ってないんだけど!?」
慌てて言葉を濁す真希。
しかし佐野の表情は、すでに“全肯定”のフェーズに入っていた。
(……これはもう、バレてるのでは?)
◆
そんな中、社内の空気を微妙に察知した人物がいた。
そう、陽翔だった。
「真希さん……いや、春日井課長。昼の会話、壁が薄いんで気をつけてくださいね」
「えっ……」
「それと、悠真のやつ……スマホの待ち受け、うっかり“例のやつ”になってたの気づいてませんよね?」
(……結翔の写真!?)
「……まさかあいつ、復帰祝いのスライドであの動画使おうとしてたとか、ないよね?」
「……悠真、爆発してしまえ」
◆
そして定時直前。
社内スピーカーから流れたアナウンス。
「明日10時から、営業部春日井課長による“復職者支援と現場連携”のミニセミナーを開催します!」
(……ちょ、ちょっと待って、今私、“復職者支援”って紹介された!?)
慌てて自席で起き上がる真希。
それを遠巻きに見る女性社員たちは、目を輝かせていた。
「ねぇ、やっぱりママだよね……!」
「絶対、今日のセミナー、話の端々に出てくるって!」
◆
──そして、退勤後のエレベーター。
「ねぇ、悠真くん」
「ん?」
「明日、社内スライドで“例の家族動画”とか流したら、私は一生、君を許さないからね?」
「えっ、なんでバレてるの……」
「私を、甘く見るな。私は“春日井課長”よ?」
──そう、それでも私は、母である前に“課長”である。
その背中は今日も、誰よりも真っ直ぐで、強く、そして時に優しかった。
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