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番外編①: “パパって呼ばせたい”作戦会議


春日井家の朝は、今日もにぎやかだった。


「……ま、ま……」


「よしっ!今、“パパ”って言いかけたぞ!?聞いたか真希!!」


「ちがう。“ま、ま”ってことは“ママ”のほうが近いでしょ?残念だったね、悠真くん」


リビングに響く、小さな唇の喃語と、両親の熾烈な攻防。

ソファに寝転がってご機嫌な結翔ゆいとは、両親の戦いをよそに、足をバタつかせながら笑っていた。


「でも、ほんとに最近、声を出すようになったよなぁ……」


「うん、そろそろ“最初の一言”が来てもおかしくない。ここが勝負時よ」


目が合う。

なぜかそこからは、競技前のアスリートのような緊張感が走った。


「ということで……」


「ということで……?」


「絶対に“パパ”って先に言わせる! 今夜から“パパ集中作戦”を決行する!」


「やれるもんならどうぞ。私は、寝かしつけで“ママ”を百回唱えるわよ」


火花が散る春日井家。


──こうして、“第一発語”をめぐる戦いは、幕を開けた。


 



「……ほら結翔〜、“パ・パ・パ”。ほら、言ってごら〜ん」


“パ”の発音を強調しながら、おもちゃの象を振る悠真。

その声は明らかにテンション過多。

まるで会社の朝礼とは別人のようだった。


「ゆいと〜、“まま”って言ってくれたらママ嬉しいな〜」


こちらは優しい声で包み込む真希。

“親バカ全開の勝負”が、今まさにリビングで繰り広げられていた。


……その様子を、GoProが静かに記録していた。


「ふふっ、これあとで見返すの楽しみだね」


「うん……でも、これ社内の人に見られたらアウトだな」


と、悠真が録画用スマホをセットしながら苦笑した。


「……この映像、保存名“2025_ゆいとパパ発語_決戦”って名前で合ってる?」


「やめて。バレるでしょ、それだけでバレるでしょ」


 



――数日後、会社にて。


「……あれ?悠真くん、それ何のファイル開いてるの?」


「んっ?あ、いや、えーっと……企画プレゼンの動画ですよ!!(ウソ)」


彼のモニターに表示されていたのは、“パパって言わせようとする悠真”のアップ。

デスクでUSBを差し込んだまま別フォルダが開いてしまった、完全なるミス。


隣の席の村瀬翼が、モニターを覗き込みかけたその瞬間――


「ちょ、トイレ行ってきます!!」

(PC持って)


慌ててノートPCごと持ってトイレにダッシュする悠真。


──社内における最速スプリント記録、更新である。


 



その夜。

3人で食事を終えたあと、結翔は眠気に耐えきれず目をこすっていた。


「ゆいと〜、ほら……“まま”だよ〜」


「いいや、最後に言うのは“パパ”だっ!」


真希と悠真の声が同時に重なった瞬間――


「……ま、ま……ぱ……」


「今言った!?言ったよね!?」


「いや、“まま”だった!今の“ぱ”は息吐いただけ!」


証拠映像を確認すべく、再び家族ムービーの録画をチェックする2人。

その記録には、“奇跡の発語”とともに、大人たちの喜びと騒ぎがバッチリ収められていた。


「……これ、あれね。“社外秘”どころじゃないね」


「永久保存版。絶対どこにもアップしないでよ?」


 



──こうして、春日井家の「初めての言葉」をめぐる戦いは、

勝敗がつかないまま、また新しい一日へと続いていく。


次は、いつ“ママ”と“パパ”がハッキリ呼ばれる日が来るのか。

その日を、2人は今日も楽しみに、そしてこっそりと競い合っていた。


──そしてそのムービーフォルダの名前は、静かに変えられていた。


『ゆいとの記録:パパママ激戦の章』



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