番外編①: “パパって呼ばせたい”作戦会議
春日井家の朝は、今日もにぎやかだった。
「……ま、ま……」
「よしっ!今、“パパ”って言いかけたぞ!?聞いたか真希!!」
「ちがう。“ま、ま”ってことは“ママ”のほうが近いでしょ?残念だったね、悠真くん」
リビングに響く、小さな唇の喃語と、両親の熾烈な攻防。
ソファに寝転がってご機嫌な結翔は、両親の戦いをよそに、足をバタつかせながら笑っていた。
「でも、ほんとに最近、声を出すようになったよなぁ……」
「うん、そろそろ“最初の一言”が来てもおかしくない。ここが勝負時よ」
目が合う。
なぜかそこからは、競技前のアスリートのような緊張感が走った。
「ということで……」
「ということで……?」
「絶対に“パパ”って先に言わせる! 今夜から“パパ集中作戦”を決行する!」
「やれるもんならどうぞ。私は、寝かしつけで“ママ”を百回唱えるわよ」
火花が散る春日井家。
──こうして、“第一発語”をめぐる戦いは、幕を開けた。
◆
「……ほら結翔〜、“パ・パ・パ”。ほら、言ってごら〜ん」
“パ”の発音を強調しながら、おもちゃの象を振る悠真。
その声は明らかにテンション過多。
まるで会社の朝礼とは別人のようだった。
「ゆいと〜、“まま”って言ってくれたらママ嬉しいな〜」
こちらは優しい声で包み込む真希。
“親バカ全開の勝負”が、今まさにリビングで繰り広げられていた。
……その様子を、GoProが静かに記録していた。
「ふふっ、これあとで見返すの楽しみだね」
「うん……でも、これ社内の人に見られたらアウトだな」
と、悠真が録画用スマホをセットしながら苦笑した。
「……この映像、保存名“2025_ゆいとパパ発語_決戦”って名前で合ってる?」
「やめて。バレるでしょ、それだけでバレるでしょ」
◆
――数日後、会社にて。
「……あれ?悠真くん、それ何のファイル開いてるの?」
「んっ?あ、いや、えーっと……企画プレゼンの動画ですよ!!(ウソ)」
彼のモニターに表示されていたのは、“パパって言わせようとする悠真”のアップ。
デスクでUSBを差し込んだまま別フォルダが開いてしまった、完全なるミス。
隣の席の村瀬翼が、モニターを覗き込みかけたその瞬間――
「ちょ、トイレ行ってきます!!」
(PC持って)
慌ててノートPCごと持ってトイレにダッシュする悠真。
──社内における最速スプリント記録、更新である。
◆
その夜。
3人で食事を終えたあと、結翔は眠気に耐えきれず目をこすっていた。
「ゆいと〜、ほら……“まま”だよ〜」
「いいや、最後に言うのは“パパ”だっ!」
真希と悠真の声が同時に重なった瞬間――
「……ま、ま……ぱ……」
「今言った!?言ったよね!?」
「いや、“まま”だった!今の“ぱ”は息吐いただけ!」
証拠映像を確認すべく、再び家族ムービーの録画をチェックする2人。
その記録には、“奇跡の発語”とともに、大人たちの喜びと騒ぎがバッチリ収められていた。
「……これ、あれね。“社外秘”どころじゃないね」
「永久保存版。絶対どこにもアップしないでよ?」
◆
──こうして、春日井家の「初めての言葉」をめぐる戦いは、
勝敗がつかないまま、また新しい一日へと続いていく。
次は、いつ“ママ”と“パパ”がハッキリ呼ばれる日が来るのか。
その日を、2人は今日も楽しみに、そしてこっそりと競い合っていた。
──そしてそのムービーフォルダの名前は、静かに変えられていた。
『ゆいとの記録:パパママ激戦の章』
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