第10話「結翔、初めての“お出かけ保育”と、ふたりの新しい日常と私たちの“家族”のかたち 」
──『家族のかたち、私たちらしく』
◆【はじめての朝。はじめての涙】
春の柔らかな風が吹く朝。
ルクシアの朝礼が始まる少し前、ふたりは手を繋いで、保育園の門の前に立っていた。
「……いってらっしゃい、結翔」
真希の声は、わずかに震えていた。
抱きしめる手をゆっくり離すと、結翔は少しきょとんとした顔をして、保育士の腕におさまる。
「ばいばーい!」
――そして、泣かなかった。
(あ……行けた)
悠真と真希は顔を見合わせたまま、しばらくその場を動けなかった。
結翔が見えなくなってから、ふたりはふと、同時に目頭を押さえる。
「……泣かなかったね」
「……泣かなかったわね」
「……なのに俺らが泣くって、どういうこと?」
「……ほんとね」
そして、ふたりは笑った。涙のまま。
◆【“母である私”が見られた日】
昼休み、真希は結翔のお迎え時間を調整しようと電話で園と話していた。
カフェのテラス席、視線の先には偶然にも、ルクシアの営業部・新田茜の姿が。
(まずい……!)
瞬時にスマホを伏せたが、時すでに遅く――
新田は「あれ? 春日井課長……?」と近づいてくる。
「お昼ですか? あの、今……“ゆうちゃんママ”って聞こえたような……」
「……あっ、ええ、あの……姪っ子です」
(乗り切った!?)
「へえ〜! “ママ”なんて似合いすぎてて、逆に驚きです!」
(ちょっと刺さるわね、それ……)
◆【再び交差する“仕事”と“家族”】
午後の休憩室。
悠真が進藤あかりと雑談していたところ、今度は保育園の写真を偶然見られる。
「えっ、この子……あれ、課長と一緒に映ってる?」
「いや……それ、親戚の集まりのやつで……」
(ああああああああああ、ギリギリっ!)
けれど、あかりも美波も、翼も、すでに全部知っている。
だからこそ、何も言わず、そっとその話題を終わらせてくれた。
(ありがとう。ほんと、ありがとう……!)
◆【夜。新しい“会話”】
その夜。
結翔はすやすやと眠り、リビングには静かな時間が流れていた。
真希は悠真の隣に腰かけ、コーヒーを口にしながら、ぽつりと呟いた。
「……じゃあ、次はどうする?」
「え?」
「ふたり目……いると思う?」
悠真は驚いたように真希を見るが、すぐに優しく微笑んだ。
「……俺は、いいと思ってる。
結翔が、弟か妹ができたら、きっといいお兄ちゃんになる」
「うん……。私も、少しそう思ってたの」
ふたりは見つめ合い、静かに頷く。
まだ先のことかもしれない。
でも、未来の話が“前向きな日常”として語れること――それが幸せの証だった。
◆【“家族”の歩くかたち】
その日の夜。
結翔の手を真ん中に、ふたりの手がそっと重なる。
パチンと照明が落ち、廊下を歩く家族の3つの影が並ぶ。
小さな足音と、大きな手と、あたたかなぬくもり。
――それは、“私たちらしい”家族のかたち。
これからも、時にすれ違い、時に立ち止まりながらも、
ふたりとひとりは、同じ歩幅で歩いていく。
──『私たちは、私たちのままで、家族になる』
◆【夜の食卓で】
結翔が眠ったあとのリビング。
晩ごはんを食べ終えたテーブルには、温かい残り香と、ふたりの静かな呼吸。
「……保育園の先生がね、今日の遠足、結翔がずっとにこにこしてたって」
「ほんと? よかった……朝はちょっと泣きそうだったから、心配だったけど」
真希はカップを手に持ちながら、静かに頷いた。
「私も、心配だった。……でも、結翔の成長って、すごいわ。もう、ちょっとずつ“親から離れる”準備をしてるのね」
「うん。でもまだ、帰ってきたら、甘えてほしいな」
「それはもちろん。ふたりとも、べた甘えさせるんだから」
ふたりは、ふっと笑い合った。
◆【“ふたり目”という未来】
時間がゆっくりと流れる夜。
ソファに寄りかかりながら、真希がふいに切り出す。
「……じゃあ、次はどうする?」
「ん?」
「ふたり目。……いると思う?」
悠真は一瞬、言葉を失い、それからそっと真希を見た。
「……真希さんが、望んでるの?」
「少しだけ。でも、怖いのもあるわ。仕事のこと、体のこと、年齢のこと……何より、結翔をちゃんと育てながら、もうひとりって……」
「うん。でも……俺は、“結翔の弟か妹”がいたら、嬉しい。
それに、真希さんがまた母になる姿……見たい。心から、そう思う」
真希はその言葉を、しっかりと胸にしまった。
そして、そっと彼の肩にもたれながら、目を閉じる。
「……ありがとう。すぐじゃなくても、いいわ。
でも、もしこの家族が、もうひとつ広がっていくなら……私も、きっと、幸せ」
◆【手をつなぎながら、未来へ】
寝室に灯る小さなライトのもと。
ふたりは、結翔を真ん中に、そっと手を繋いだ。
「こうしてるとね、“家族”って実感するの。
誰にも見せない顔でも、私でいられるのは……あなたがそばにいるから」
「俺も、毎日そう思ってる。家に帰ってきて、あなたがいて、結翔がいて……それだけで、世界でいちばん強くなれる」
静かに、唇を重ねる。
長く、優しく。
まるで、未来への約束のように。
──『誰にどう思われてもいい。ただ、私たちは“私たちのままで”生きていく。』
◆【朝の小さな風景】
春の日差しが差し込む朝。
結翔はお気に入りの小さなリュックを背負い、まだ不器用な足取りで歩いている。
その手を、真希と悠真が両側から優しく握っていた。
「今日は、遠足だって。ちゃんと先生の言うこと聞けるかな?」
「ん……わかんない」
「ふふ……その顔は、ちょっと不安そう?」
「でも……大丈夫よ。帰ったらパパとママが待ってるから」
――この日常が、奇跡のように尊い。
◆【未来に手を伸ばす】
園の門の前で、結翔が手を振る。
「いってきまーす!」
涙ぐむ真希の隣で、悠真が優しく腕を回した。
「……泣かないで。かっこいい“ママ課長”なんでしょ?」
「なによそれ……でも、ありがとう」
ふたりは肩を並べて、園をあとにする。
どこにでもあるような朝。
だけど、ここにしかない、かけがえのない時間。
◆【ひとつの答え】
帰宅後。
洗濯物を干す手を止めて、真希がぽつりと言った。
「……ねえ、私、やっぱりもうひとり……赤ちゃん、ほしいな」
悠真は、止めていたテレビのリモコンをそっと置く。
「……俺も。同じこと、考えてた」
ふたりは顔を見合わせて、微笑んだ。
「じゃあ、また頑張らなきゃね。……“家族”を、育てていくために」
「うん。一歩ずつ。今までみたいに」
◆【ラストカット:ふたりとひとりの歩む未来】
夜の歩道。
ほのかに灯る街灯の下で、真希・悠真・そして小さな結翔の“3人の手”がしっかりと繋がれている。
そのシルエットは、ゆっくりと、迷いなく――未来へ向かって歩いていく。
やがて夜は明けて、朝の光が静かに射し込む。
◆【朝のはじまりと、3つの影】
翌朝。
小さなリュックを背負った結翔は、パパとママの手をぎゅっと握って歩いていた。
保育園へ向かう道。
会社へ向かう途中。
どこにいても、ふたりにとって今この手の中にあるぬくもりこそが、人生そのものだった。
やがて、朝日が3人の姿を照らす。
歩道に浮かぶ、3つの影。
真希と悠真は目を合わせて、そっと微笑み、
その手を、少しだけ強く握り直した。
「さあ、行こうか。今日も、ふたりとひとりで」
その声に応えるように、結翔が小さく頷いた。
◆【夕暮れの“家族のかたち”】
夕方。
橙に染まる空の下を、家族3人が並んで歩いている。
パパ、ママ、そして息子。
しっかりと手を繋ぎ、少しずつ揃っていく足音と歩幅。
それは、まだ未完成な家族の形。
けれど、誰よりも強くて、あたたかくて、
そして――世界でいちばん幸せな“形”。
(きっとこれが、私たちの“正解”なんだ)
誰かに認められなくてもいい。
誰かに笑われてもいい。
私たちは――
“私たちのままで”生きていく。
そう心に誓いながら、
ふたりとひとりの影は、未来へと続く道を歩いていく。
◆【そして物語は、静かに幕を閉じた。】
最後まで読んでくださり、ありがとうございます!
もしこの物語に少しでも「面白い!」と感じていただけたなら——
ブックマーク & 評価★5 をぜひお願いします!
その一つひとつが、次の章を書き進める力になります。
読者の皆さまの応援が、物語の未来を動かします。
「続きが気になる!」と思った方は、ぜひ、見逃さないようブックマークを!
皆さまの応援がある限り、次の物語はまだまだ紡がれていきます。




