表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/83

第9話「復職、再始動、そして試される“パートナーシップ” そして歩幅を揃えて、ふたりで前へ」


──『ふたりで、もう一度、歩き出すために』


◆【“おかえりなさい”の重み】


春の陽射しが柔らかく降り注ぐ朝。

結翔に手を振りながら、真希は数ヶ月ぶりに出社した。


「……おはようございます」


受付の自動ドアが開いた瞬間、ほんの一瞬――

すれ違う社員たちの視線が、真希の身体を横切った。


(あ……)


どこか“母になった”ことを見透かされているような感覚。

けれど、誰も何も言わず、代わりにひとりの女性社員が微笑んだ。


「春日井課長、おかえりなさい。待ってました」


「……ありがとう。よろしくお願いします」


その言葉に、ほんの少し肩の力が抜けるのを感じた。


◆【“上司”と“母”の境界線】


席に着いてすぐ、真希は自分の机に置かれていた業務メモを読み込んだ。


業務改革、部下の異動、プロジェクトの引き継ぎ――

時間が止まっていたのは、自分だけだった。


(ここに戻ってきたからには、“課長”としてやらなくちゃ)


しかしその後すぐ、保育園からの“結翔の微熱連絡”がスマホに届く。


――ああ、始まったのね。“両立”ってやつが。


だが、不思議と焦りはなかった。


すぐさま悠真に連絡を入れると、彼は静かに答えた。


「大丈夫。俺、すぐ抜けて迎えに行くから。今日は午後出る予定なかったし」


「……ごめんね。ありがとう」


「何言ってるの。俺たちの“子育て”なんだから、ふたりでやるに決まってるじゃん」


その言葉に、真希の胸がほんのり温かくなった。


◆【“私らしさ”と“私たちらしさ”】


ランチタイム。

屋上のベンチでひとり風を感じていた真希のもとに、橘理沙副社長がふらりとやってくる。


「どう?初日」


「……思ったより、ずっと現実が突き刺さってくるというか」


「それでも、来た。戻った。立派よ」


真希は、ふとつぶやくように言う。


「たまに思うんです。私は本当に“仕事に戻りたかった”のか、それとも“戻らなきゃいけない”と思ってたのか」


「それ、たぶん両方ね。でも、“私であるために戻った”って、ちゃんと誇っていいわよ」


「……私で、あるために」


理沙は笑って、手元のペットボトルのキャップを指で転がす。


「それに、あなたの戻る場所が“職場”だけじゃないことを、ちゃんと悠真くんが証明してるでしょ」


その言葉が、真希の背中を確かに支えてくれた。


◆【ひとつの帰り道】


夜――

結翔をベッドに寝かせたあと、ソファに並んで座るふたり。


「どうだった?」


「……仕事は、やっぱり大変だった。でも、嫌いじゃない。むしろ……好き」


「それならよかった」


「……でも、やっぱり今日一日で疲れちゃった」


「じゃあ、今日は“妻”でも“母”でもなく、“真希さん”でいて。

俺が、“夫”として甘やかすから」


「ふふ、じゃあお願いしようかしら」


そっと寄り添い、唇が重なる。


“おかえり”と“ありがとう”が、言葉にしなくても伝わる。


◆【“夫婦”という道の真ん中で】


ふたりは肩を並べたまま、静かに手をつないだ。


誰に見られなくても、

誰に知られなくても、

この時間こそが、ふたりの“本当の居場所”。


“パートナー”という言葉の意味を、

今、ふたりは確かに胸の中で感じていた。



──『私であることを、私たちで守るために』


◆【“変わったこと”と“変わらないもの”】


夜。

結翔を寝かしつけたあとのリビング。


真希はパソコンの電源を落とし、ふうっと小さく息をついた。


「……今日、私、ちゃんと“春日井課長”だったかな」


「うん。かっこよかった。俺なんか何回も見とれた」


悠真は、隣のキッチンでお茶を淹れながら、冗談めかして言う。


「でも……やっぱり、職場の空気って、ちょっと変わってたわ」


「そりゃ、春日井真希が“お母さんになって帰ってきた”んだから、みんな無意識に気にするよ。

でもそれって、悪いことじゃない。変わったからこそ、もっと強くなってるって俺は思う」


「……悠真」


真希は湯気の立つ湯呑みを受け取りながら、ふっと笑った。


「本当に、あなたが夫でよかった。……たぶん、いまの私、独りじゃ乗り越えられなかった」


「俺もだよ。あなたが“家族”になってくれたから、俺も大人になれたんだ」


ふたりは視線を交わす。

それだけで、今日の疲れがふっと消えていくようだった。


◆【“わたし”を許すということ】


「……ねえ、悠真」


「ん?」


「もう少しだけ、“自分を甘やかして”いいかな」


「もちろん。俺が全力で、甘やかす」


その言葉に、真希はそっと彼の胸に顔を預けた。

腕が回され、あたたかな体温が背中に伝わる。


「……ねえ。これからも、ずっと一緒にいてくれる?」


「ずっといるよ。俺、あなたと結翔のために、人生全部使いたいんだ」


「ふふ……言いすぎ。でも、うれしい」


唇が重なり、静かにキスを交わす。


それは「愛してる」よりも、深く、

「ありがとう」よりも、あたたかい。


◆【灯りの中の“ふたり”】


間接照明だけが灯る部屋で、ふたりは寄り添いながら話す。


明日のこと。

仕事のこと。

そして、結翔の未来のこと。


小さな手が夢の中でピクリと動いたのを見て、ふたりはほほ笑む。


「……私、もう大丈夫」


「うん。わかってる」


「これからも、全部は完璧にはできないかもしれないけど――

私、“母であること”も、“課長であること”も、諦めたくないの」


「どっちもやればいいさ。俺もいる。家族もいる」


手を重ね、指を絡める。


それだけで、

“ふたり”が“家族”であることの証になる。


そして、未来はいつだって、ここから始まる。



──『“家庭”と“職場”――そのどちらも、私たちの大切な場所』


◆【夜のリビングにて】


結翔を寝かしつけたあとの静かな時間。

真希はソファに座りながら、悠真の淹れた温かい紅茶を両手で包んでいた。


「……久しぶりの仕事復帰、思ってたよりもずっと緊張したわ」


「そりゃそうだよ。何ヶ月ぶりのオフィスだもん。でも、ちゃんと“課長”だった。みんなもそう感じてたと思う」


悠真はそう言いながら、真希の隣に腰を下ろし、自然と肩を寄せた。


「不安だったけど……でも、こうして帰ってこれる場所があるって思えるだけで、今日一日、乗り越えられた気がする」


「ここが“ふたりの家”だからね。俺にとっても、そうだよ」


言葉を交わすごとに、心がほどけていく。

それは家族であり、恋人であり、同士であり――ふたりが築いたかけがえのない絆だった。


◆【歩幅を揃えて、ふたりで生きる】


「ねえ、悠真」


「うん?」


「これから先、もっと忙しくなると思う。子どものことも、仕事のことも。きっと、うまくいかない日も出てくる」


「うん、たぶん何度も。だけど――」


そう言って、悠真は真希の手をとる。


「そのときは、また一緒に考えよう。ふたりなら、きっとなんとかなる。……俺は、そう信じてるよ」


その言葉に、真希は思わず目を潤ませた。


「……ありがとう。私も、あなたとなら、全部ちゃんと抱えていける」


◆【“ふたりの暮らし”は、続いていく】


夜が更け、部屋の明かりが一つ、また一つと落ちていく。


キッチンに並んだ哺乳瓶。

冷蔵庫には明日使う離乳食のストック。

そして、ベビーベッドで穏やかに寝息を立てる小さな命。


それらすべてが、“いま”のふたりの暮らしだった。


真希はそっと悠真の肩に頭を預け、ゆっくりと目を閉じた。


「……明日も、がんばろうね」


「うん。明日も、ふたりで」


重なる手のひらのあたたかさが、静かに夜を包みこんでいった。


――これは、“ふたりとひとり”の、未来へ続く物語。




最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

もしこの物語に少しでも「面白い!」と感じていただけたなら——


ブックマーク & 評価★5 をぜひお願いします!


その一つひとつが、次の章を書き進める力になります。

読者の皆さまの応援が、物語の未来を動かします。


「続きが気になる!」と思った方は、ぜひ、見逃さないようブックマークを!

皆さまの応援がある限り、次の物語はまだまだ紡がれていきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ