第3話「ベビー用品と、電車デートと、偶然… 」
◆【週末の、ささやかな小旅行】
土曜の朝。
久しぶりの休日に、家族3人は手をつないで駅へ向かっていた。
ベビーカーには、生後6ヶ月になった結翔。
顔立ちも少ししっかりしてきて、道ゆく人にも「可愛いですね」と声をかけられることが増えた。
「電車、久しぶりだなぁ。真希さんとこうやって“デート”するの、いつ以来だろ」
「妊娠中は移動が大変だったから……本当に、久しぶりね」
「ベビー用品店って、駅ビルの上の階だったっけ?」
「ええ。おむつと、おしり拭きと、あと春服。サイズアウトしちゃったものが多くて」
エレベーターを待つあいだ、結翔が「あーうー」と声を上げ、
ふたりは顔を見合わせて笑った。
◆【車内にて、“ふたり”ではないデート】
混雑を避けた昼前の電車内は、思ったより空いていた。
「ベビーカー、奥に入れて大丈夫ですか?」
「はい、どうぞ」
乗客のひとりが快くスペースを譲ってくれて、真希は丁寧に頭を下げた。
「最近、“親子連れ”に優しい人が多いの、救われるわ……」
「それ、つまり“俺たちが親子連れに見える”ってことだよね」
悠真が少し照れくさそうに笑うと、真希は静かに頷いた。
「見える、じゃなくて。私たちは親子“じゃなく”、家族なのよ」
「……うん、そうだね」
目を合わせたその瞬間、心の奥がふっとあたたかくなる。
彼女の言葉は、いつだって“覚悟”と“愛”に満ちていた。
◆【予期せぬ“遭遇”】
目的地の駅に着く直前――
電車のドアが開いた瞬間、悠真はふと見覚えのある顔を見つけて固まる。
「……え、あれ……ルクシアの……総務部の……」
「悠真? どうしたの?」
「いや、ちょっと待って。真希さん、顔……あんまり上げないで」
「えっ?」
ベビーカーを押す手をそっと引き寄せながら、悠真は自分の身体で真希をさりげなく隠すように立つ。
そして、目を合わせないようにすれ違うようにして――
「……あの子、たぶん、俺の後輩。新田茜って名前。総務の……噂好きな子」
「……まずい?」
「いや……たぶん、ギリ、セーフ……?」
真希は思わず苦笑した。
――社内恋愛でもない、極秘結婚と育児。
それを隠し通すには、こうした“偶然”すら命取りになりかねない。
「……やり過ごせたら、駅ビルのカフェでケーキね」
「よっしゃ、絶対見られてないって信じてる……!」
◆【ほんのひととき、“夫婦”として】
駅ビルのカフェ。
ベビーカーをテーブル脇に寄せ、ベビーシートに寝かせた結翔は、すやすやと静かな寝息を立てていた。
真希はカップに口をつけ、ふぅ、と小さく息を吐く。
「……この時間が、いちばん“家族”って感じがするかも」
「わかる。仕事も会社も全部忘れて……ただ、真希さんと、結翔と一緒にいられるだけでいいって思う」
ふたりの声は小さく、やさしい。
互いに手を重ね、微笑み合ったそのとき――
◆【それは、唐突に】
「……え、あれって――課長……?」
「マジで? あの人と一緒にいるの、高槻じゃね?」
――カラン、とスプーンの音が響く。
視線を向ければ、カフェの入口。
そこには、ルクシアの営業部に所属する女子社員・田辺詩織と、同じく男子社員・間宮翔太の姿。
ふたりは買い物帰りらしく、紙袋を片手にレジに並んでいた。
そして、こちらをちらちらと見ている。
(……まずい……!)
悠真は瞬時に判断し、真希のカップを取りつつ、顔を軽く伏せるようジェスチャー。
「真希さん、俺の後ろ側に少し寄って」
「……うん」
しかし、そんな気遣いをよそに――
「おーい、高槻ー!」
大声で呼ぶ間宮。空気の読めなさ、ここに極まれり。
(くっ……!)
悠真は半ば仕方なく立ち上がると、苦笑を浮かべながら答えた。
「よ、よう……偶然だな。買い物?」
「うんうん、詩織がさ、ベビーフォトフレーム見たいって言うから」
「わたし、甥っ子にプレゼントしようと思って。ところで、あの隣の方……」
「…………っ」
空気が、一瞬だけ凍った。
そのときだった。
◆【助け船は、“家族のような味方”】
「おーい、悠真ー! こっち、席空いてるぞー!」
見慣れた声が響いた。
振り向けば、少し離れた窓際のソファ席に、村瀬翼。
そして、その隣には――
「えっ、双子……?」
「うちの姉たち。2個上。真希さんにちょっと似てるって言われるんだよね~」
「いやもう、びっくりするぐらい似てるわ」
そしてその横には、双子姉妹の両親らしき中年夫妻もにこやかに座っている。
「あっちは、うちの家族ね!」と翼が笑いながら紹介するのに合わせるように、悠真もすかさず相槌。
「そうそう、今日はたまたま一緒に。えーっと、こっちは僕の、大学時代の友人です。偶然会ったんで、ここで少し……ね」
真希もすぐにそれを察し、にこりと愛想笑い。
「……はじめまして。高槻くんの知り合いです」
「おー、お綺麗な方っすね! 失礼しました~!」
間宮が何となく納得し、詩織も「そっか、知人か……」と納得顔。
「じゃ、またねー!」と二人がレジへ去っていくのを見送りながら――
悠真はようやく、胸を撫で下ろした。
◆【救われたあとの、微笑み】
席に戻ると、真希が静かに言った。
「村瀬くんって……本当に頼りになるわね」
「だろ? あいつ、空気読めるし、機転利くし。多分、前世でスパイやってたよ」
ふたりは顔を見合わせて笑った。
ベビーカーの中で、結翔がふと寝返りをうち、ふたりの指をちいさな手で掴んだ。
「……家族って、こういう瞬間を積み重ねていくんだね」
「うん。これからも――隠してでも、守っていこう」
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