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第8話「君の大切な家族へ――僕が“夫”として伝える覚悟とふたりで“家族”になる準備を――静かな幸せの重なり」


◆【春の風と、門前の沈黙】


桜がわずかに散り始める春の昼下がり。

悠真と真希は、ふたり並んで真希の実家の前に立っていた。


一軒家の門扉は、きちんと磨かれた真鍮の金具が陽にきらめいている。

真希が住んでいた家――けれど、悠真にとっては初めて訪れる“義両親の家”だった。


「緊張してる?」


真希が小さく聞いた。


「……してるよ、当然。でも、ちゃんと伝えたいから」


悠真は手のひらで額の汗を拭いながら、真希の手をしっかり握り返した。


◆【対面、そして“過去”の話】


リビングに通されると、そこには柔らかい空気が流れていた。


真希の母は、穏やかな目元に少しだけ厳しさを宿し、

真希の父は無口な印象ながら、悠真をまっすぐ見つめていた。


真希の母が口を開いた。


「……あなたが、悠真くんね。真希からいろいろ聞いてるわ」


「……本日はお時間いただき、ありがとうございます。

春日井真希さんと結婚させていただき、いまお腹の中に……ふたりの子どもがいます」


悠真は、真っ直ぐに頭を下げた。

震える声を抑えながら、それでも一言一言を丁寧に、誠実に。


「僕は、両親を幼い頃に事故で亡くしました。

誰にも頼れず、市役所のロビーで濡れたまま座り込んでいたとき……真希さんが、僕を拾ってくれました。

それが……すべての始まりです」


◆【“育ての母”ではなく、“愛する人”】


「最初は、親でも保護者でもなくて、ただ一緒に住んでいた人でした。

けれど僕は、真希さんに支えられて生きてこれた。

どんなときも優しくて、強くて、何よりも――僕に希望をくれた人です」


目の前の両親は、黙って耳を傾けていた。


「だから……僕にとって真希さんは、“育ての母”ではありません。

人生で初めて、“この人を守りたい”と思えた、かけがえのない――愛する女性です」


真希の母の瞳が、すこし潤んだ。


「……年の差のことも、立場のことも、全部分かっています。

でもそれでも、僕は、真希さんを世界で一番愛しています」


悠真の声は、はっきりと響いていた。

誰よりも、彼自身の覚悟を確かめるように。


◆【真希の父の一言】


しばらくの沈黙の後、父が口を開いた。


「――お前が、うちの娘を“女”として見てることも、腹では分かっていた。

……だが、今日の話を聞いて思ったよ。

あいつは、お前にしか救えなかったんだな」


その言葉に、悠真の背筋が伸びる。


「真希が……“あの子、笑ってくれるようになった”って言ってた。

誰かの心を守れる男ってのは、そう多くねぇ。大事にしてやれ」


悠真は深く頭を下げた。


「……はい。僕が、必ず真希さんと子どもを守ります」


◆【優しい手と、家族の始まり】


帰り際、真希の母が玄関先でそっと言った。


「……ありがとう。娘を、こんなにも大事に想ってくれて」


彼女は悠真の手を握った。

その手は少し冷たく、でも確かに優しかった。


「どうか……ふたりで、幸せになってね」


その瞬間、真希の横顔に、涙が一粒だけ落ちていた。



◆【母になる準備と、部屋の模様替え】


実家から帰った翌週。

真希は、自宅の寝室を見つめながらぽつりとつぶやいた。


「……このベッド、もう少し寄せられるかな。

赤ちゃんが生まれたら、ベビーベッドをここに置きたいの」


「ベビーベッドか……」


悠真は一瞬、想像できずに戸惑った顔をしたが、すぐに頷いた。


「いいね。じゃあ、寝室は“家族3人の部屋”にしよう」


そう言って、ふたりでベッドを少しずらし、クローゼットの棚を整理した。

そのひとつひとつが、“家族の準備”として実感に変わっていく。


「私、こんな風に家の中が少しずつ変わっていくの、初めてなの。

生活が、未来に向かって動いてるっていうか……」


真希がそう言うと、悠真は笑った。


「俺は真希さんが“未来”なんだけどね」


◆【はじめての“ベビーグッズ選び”】


休日。

ふたりはデパートの育児用品売り場に足を運んだ。


「……かわいい。こんなに小さいんだね、赤ちゃんの服って」


淡い色のロンパースや、柔らかいガーゼ素材のスタイ。

何気なく見ていた品々が、今はひとつひとつ“選ぶ対象”になる。


「これ、似合いそう……男の子でも女の子でも、真希さんに似たら絶対可愛い」


「……ちょっと、それは親バカすぎ」


と笑いつつも、真希の表情は穏やかで、目は潤んでいた。


「生まれるまでの時間が、こんなに愛おしいなんて思わなかった」


そう呟く声に、悠真はそっと手を握った。


◆【名前をめぐる、ふたりの夜】


帰宅後、ふたりはキッチンのテーブルに向かい合いながら、ノートを広げた。


「名前、どうする?」


「まだ男の子か女の子かも分からないけど……」


ふたりはペンを持ち、候補を出し合う。


「“陽菜ひな”ってどう? 春に咲く花みたいな子に」


「“悠翔ゆうと”っていうのもいいな。

“悠”は俺の名前から取ったけど、“真希さんの“翔”みたいに、大きく羽ばたく意味も込めて」


「……うん、どちらも素敵」


名前を考える時間すら、ふたりにとっては愛おしい。


ふと真希は、ノートに手を止めて悠真を見つめた。


「ねぇ……こうして一緒に悩んでくれるの、本当に嬉しい。

私、ひとりじゃないんだって、改めて感じたの」


悠真は、彼女の手をぎゅっと包んだ。


「俺は、ずっとそばにいるよ。家族だから」


◆【静かな未来への確信】


その夜。

ふたりは、ソファに並んで座り、そっと寄り添いながらテレビを眺めていた。


画面の中では、親子が手をつなぎながら歩く姿。


真希は、そっとお腹を撫でながら言った。


「いつか私たちも、こうやって手をつないで歩くのかな」


「絶対、歩くよ」


悠真は即答した。


「笑って、泣いて、迷って……でも、ちゃんと“家族”で前に進んでいく。

俺はその全部を、一緒に歩きたいって思ってる」


「……ありがとう」


ふたりの間に、言葉にならない温かさがあった。


未来は、まだぼんやりとしか見えない。

だけど、その曖昧さごと、ふたりは信じられる。


「これからも、よろしくね――夫婦として」


「うん。ずっと一緒に、家族として」


その夜もまた、小さなキスを交わして、ふたりは灯りを落とした。



最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

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