第7話「妊娠を巡る小さな事件と、守りたい理由と“家族になる覚悟”――ふたりが選んだ日常の強さ」
◆【昼休みの出来事】
その日、昼休み。
真希はいつものように社内の小さな休憩スペースで、持参したお弁当を広げていた。
――今日は少し、具材を減らしておこう。においも、まだちょっとつらいし。
同じ部署の後輩たちは気づかぬふりをしていたが、それでも彼女の体調を心配する視線は感じていた。
顔色の悪さ、時折しゃがみ込む姿、そして最近の控えめなお弁当――
「春日井課長、最近ちょっと体調が……」
「無理されてるんじゃ……」
誰かがぼそりと口にした声が、そのまま給湯室での噂になっていた。
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◆【同期の気づき】
一方、同じ頃――
総務課の一角では、高槻悠真と村瀬翼、進藤あかり、赤井美波の3人が会話をしていた。
「最近、春日井課長のことで社内ざわついてるって、知ってた?」
「うん……『何か大きな仕事抱えてるんじゃ』とか『ストレスじゃ』って言ってたよ、別部署の人」
悠真は苦笑した。
――そりゃ、そうなるよな。だって、本当は……。
誰にも言えない。でも、守りたい。
真希が余計な負担を背負わないように――
「……俺がなんとかするよ」
その言葉に、翼たちは頷いた。
すでに彼女の妊娠を知っている彼らは、誰よりも“味方”だった。
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◆【思わぬ場所で】
午後の打ち合わせが終わったあと。
真希は副社長の橘理沙に呼び止められる。
「春日井さん、少しだけいいかしら?」
「……はい、理沙さん」
ふたりきりの会議室で、理沙は小さく笑った。
「……あなた、顔色が悪いわ。無理してない?」
真希は一瞬、言葉を詰まらせた。
「……あの、実は……」
理沙の前でなら――そう思って、真希は静かに口を開いた。
「……妊娠、しているんです。まだ安定期にも入っていないのですが……」
理沙は目を丸くしたあと、ふっと笑みを浮かべた。
「……そう。じゃあ、あなたも、母になるのね」
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◆【守られる日常】
その夜、自宅のキッチンで。
エプロン姿の悠真が、味噌汁の味見をしている真希に近づいた。
「今日、理沙副社長に話したの」
「えっ……大丈夫だった?」
「うん。ちゃんと“おめでとう”って言ってくれた。
それに……“無理しないように”って、仕事の調整も考えてくれるって」
悠真はほっと胸をなでおろした。
「……よかった。少しでも、真希さんの負担が減るなら、それが一番だよ」
湯気の立ちのぼる鍋の向こうで、ふたりは微笑み合った。
◆【橘理沙の“提案”】
翌日、理沙から真希に一本の内線が入った。
「お昼、社長室で少しだけ時間もらえるかしら?」
氷室結衣社長と理沙、そして真希の三人で顔を揃えた社長室は、柔らかな光が差し込んでいた。
「春日井さん、まずは――本当におめでとう」
結衣の言葉に、真希は深く頭を下げた。
「ありがとうございます、社長……」
理沙は資料を数枚テーブルに置いた。
「これは、産前産後に関わる社内調整の案。
あなたの負担を極力減らせるよう、私たちで出来る限り準備するわ」
「えっ……ここまで……」
「あなたが守ろうとしてる命、私たちも一緒に守る。それが“ルクシア”の姿勢よ」
涙が滲むのを、真希は必死に堪えた。
――会社で、こんなにもあたたかく受け入れられるなんて。
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◆【夜の食卓、語り合う未来】
その夜。
「……今日、社長にも理沙さんにも、全部話したの」
「うん……ありがとう」
悠真は、湯気の立つテーブルを挟みながら、真希の瞳を見つめた。
「俺、思ったんだ。
“父になる覚悟”って、決して大げさなものじゃなくて――
こうして、毎日を丁寧に生きていくことなんだって」
真希は、ふっと笑った。
「……そうね。守りたいものがあるって、怖いけど、幸せなこと」
悠真は立ち上がり、そっと彼女の手を取った。
「俺、もっと強くなるよ。真希さんと、赤ちゃんを支えるために」
その手の温かさに、真希はそっと頷いた。
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◆【眠れぬ夜、重ねた想い】
夜。
ふたりはベッドに並びながら、天井を見上げていた。
「ねえ……もし、生まれてくる子が、男の子だったら」
「……真希さんみたいな気遣いのできる子になるかな?」
「え? そしたら……あなた似の、ちょっと不器用で真っ直ぐな子がいいな」
「うーん、それじゃあダブルで泣き虫かも」
そんな他愛ない会話のなかで、真希の瞳にふいに涙が浮かぶ。
「……怖いの。
もしも何かあったらって。
私、母親になれるのかなって……」
「真希さん……」
悠真は黙って、彼女を抱きしめた。
「大丈夫。俺が一緒にいる。どんなときも、ずっと」
その言葉が、どれほど救いだったか。
真希は、ぎゅっと彼の胸に顔を埋めた。
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◆【夜明けの気配と、優しさの中で】
少しずつ外が白みはじめ、カーテン越しに朝の光が差し込む。
「ねえ、悠真……」
「うん?」
「ありがとう。……私、あなたと出会えて、本当によかった」
「それは、俺の台詞だよ」
ふたりは静かにキスを交わした。
柔らかく、深く、あたたかく。
それは不安を溶かすような、やさしい夜明けのキスだった。
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