第5話「初めての妊婦健診と、ほんの少し未来の名前を… ふたりの相談相手――先輩として、父として、母として」
◆【朝、いつもより早く】
「あ、起きてる? 真希さん」
ベッドの中、薄いカーテン越しに差し込む朝日。
小さく目を開けた真希は、悠真の優しい声に微笑む。
「……起きてるわよ。でも、まだあと5分……」
「ダメ。今日は大事な日だよ?」
悠真がそっと手を伸ばし、真希の指先にキスをする。
「初めての妊婦健診でしょ。お腹の赤ちゃんに会える日なんだから」
その言葉に、ふたりの心がふっと温かくなる。
◆【病院の待合室にて】
診療所の待合室。
ふたり並んで座りながら、周囲の妊婦とその夫たちを眺める。
「……若いわね、あのご夫婦」
「こら、俺たちも“夫婦”だろ?」
「ええ、そうね。……でも、やっぱり少し気が引けるの。私、年齢的にも“高齢出産”になるし……」
真希の声が少し弱くなる。
悠真は、迷わず彼女の手を握った。
「……でも俺は、真希さんとだからこそ、この子を育てたいって思えたよ」
「悠真……」
「誰が何を言おうと、真希さんは俺にとって――世界で一番の母親で、恋人で、妻なんだ」
ふっと、真希の目から涙が零れそうになる。
でも、それを見せる前に、看護師の声が響いた。
「春日井さま、どうぞ」
ふたりは手を繋いだまま、診察室へと向かう。
◆【初めての音】
エコー室。
機械の操作音が小さく響く中、画面に浮かび上がる小さな命の輪郭。
「……あっ」
「こちら、赤ちゃんの姿ですね。順調に育ってますよ」
モニター越しに映った、小さな心臓の“トク、トク、トク”。
その音に、ふたりの呼吸が一瞬止まる。
「……生きてる。こんなに、小さいのに」
真希が震える声で呟いた。
悠真は、ただその横顔を見つめながら――
「ありがとう」と、心のなかで何度も言っていた。
◆【病院の帰り道】
診察が終わり、ふたりは近くのカフェに入る。
「……ねえ、名前、どうする?」
真希が、そっと話題を切り出す。
「まだ性別わからないし……でも、考えておくのも悪くないわよね?」
「……そうだね」
悠真はスマホを取り出し、メモ帳を開いた。
「俺、もういくつか候補あったんだ」
「……早いわね」
「“未来”とか、“陽翔”とか、“結月”とか……」
「ちょっと待って、それどれも綺麗だけど、どこから思いついたの?」
「……あはは、実は結婚してからずっと考えてた」
「……可愛いパパね」
真希は、小さく笑いながら、そのメモを見つめる。
まだ“誰になるか”わからない。
でも、この小さな選択が、未来に繋がっていると思うと――
ふたりの心は、自然と寄り添っていた。
◆【社長室――氷室結衣の言葉】
午後、真希は仕事の合間を縫って、氷室結衣社長の社長室を訪れていた。
「育児と仕事、どうやって両立してるのか……不安で」
真希がそう口にすると、結衣はソファに腰をかけながら、微笑んだ。
「不安じゃない人なんて、いないわよ。私だって、最初は何もかも手探りだった」
「でも……あなたは社長で、私なんかよりもっと大きな責任を抱えていて……」
「だからこそ、支えてくれる人の存在が何より大事だったのよ」
ふっと笑う結衣は、遠くを見つめながら続けた。
「陽翔がいてくれて、私は“社長”の肩書きのまま“母”にもなれた。どちらかを捨てる必要なんてない。あなたもよ」
「……私も?」
「うん。真希ならできるわ。だってあなた、あの高槻くんをここまで育てたんだもの」
言葉に詰まった真希の目が、潤む。
「……ありがとう、ございます」
◆【社員食堂――男同士の本音】
同じ頃、悠真は社員食堂の隅で瀬川陽翔と向き合っていた。
「……正直、不安で。父親って、どうやったらなれるのかなって」
言った瞬間、陽翔は思いきり笑った。
「俺だっていまだに“パパしてる”って自信はないぞ。子どもたちに聞いたら“いつもふざけてる”って言うしな」
「……でも、支えてるじゃないですか。結衣さんも、子どもも」
「それはな、俺が“父親になったから”じゃなくて、“一緒に成長してるだけ”なんだよ」
「……成長?」
「最初から完璧な親なんていない。おむつ替えもミルクも寝かしつけも、全部が初体験。でも、失敗しながら覚えていくんだ」
悠真は静かに頷いた。
「……俺も、成長してみせます。真希さんと赤ちゃんのために」
「おう、頼もしいな、パパ先輩」
◆【夜、ふたりだけのベッドルーム】
帰宅後、ふたりは互いの話を語り合った。
「……結衣さんに言われたわ。“あなたならできる”って」
「陽翔さんも似たようなこと言ってた。“完璧じゃなくていい”って」
「ふふ、なんか似てるのね、あの夫婦」
静かに微笑み合うふたりの間に、柔らかな灯りが落ちる。
「ねぇ、悠真」
「うん?」
「“お母さん”って、どう思う?」
「……俺は、真希さんが“母親”って呼ばれてる姿、好きだよ。だって、どんな呼ばれ方でも――真希さんが真希さんでいる限り、俺は全部愛せるから」
その言葉に、真希はぎゅっと彼を抱きしめた。
「ありがとう……本当に、あなたに出会えてよかった」
◆【そして、未来へ】
夜が更け、眠りに落ちる前――
「ねえ、もう少しだけ起きてていい?」
「うん、いいよ。赤ちゃんの名前、もう少し考えようか」
「……そうね。まだ決めなくていい。けど、少しずつ、未来を描きたいの」
ふたりの声が重なり、手が重なる。
“ふたりの未来”は、まだ何も決まっていない。
でも、確かにここにある。
――そして、小さな命とともに、ふたりの愛はまた、ひとつ深くなっていく。
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