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第4話 「先輩ママと先輩パパ――“不安な未来”を、話してみた夜… 信頼の約束と、仲間への報告――未来の名前を探して」


◆【社長室にて――真希と結衣】


その日、真希は社長室に呼び出された。


応接ソファの向かいに座っていたのは、氷室結衣。

ルクシアの社長であり、かつての先輩、そして今は――同じ“秘密の妻”という立場の、心強い女性だった。


「真希、調子はどう?」


「……正直、不安のほうが大きくて。身体は大丈夫ですけど……心が、追いつかない感じです」


そう言うと、結衣は少しだけ口元をほころばせてから、テーブルの上の温かい紅茶を差し出した。


「私も、同じだったよ。……妊娠が分かったとき、仕事をどうするか、周囲にどう言うか、夜中に泣いたこともある」


「……えっ、結衣さんが?」


「うん。意外でしょ?」


くすっと笑うその笑顔は、どこか“母”の優しさに満ちていた。


「陽翔が支えてくれた。でも彼も悩んでた。夫婦でも、違う不安を抱えてたのよ」


「……そう、なんですね」


「だからね、無理しなくていいの。全部うまくやろうとしなくていい。怖いって思って当然なんだから」


真希は、言葉が出なかった。

けれど、胸の奥で、何かがふっと軽くなるのを感じた。


「……私、あの子にとって、“ちゃんとした母”になれるのかなって……」


「“ちゃんとした”母親なんていないわ。みんな、初めてなんだから」


結衣は、そっと真希の手を握った。


「大丈夫よ。あなたなら、ちゃんと“あなたのまま”で、いいお母さんになれる」


その言葉に、涙がこぼれそうになって、真希はそっと目を閉じた。


◆【喫茶スペースにて――悠真と陽翔】


同じ頃。


ビルの1階にある喫茶スペースで、悠真は瀬川陽翔と向き合っていた。

アイスコーヒーの氷が、カランと音を立てて揺れている。


「……陽翔、子どもができたとき、どう思った?」


「正直? 怖かったよ」


陽翔は即答した。


「俺に父親なんて務まるのかって。結衣に“守る”って言ったはいいけど、本当に守れるのかって、自信がなかった」


「……俺も、今そんな感じ。嬉しいし、守りたい。でも、全部が不安でさ。これから真希さんに何かあったらどうしようって」


「それでいいんだよ」


陽翔は、まっすぐな目で悠真を見た。


「大切な人のことを考えて、怖くなるってのは、ちゃんと“夫”になった証拠だから」


「……そうかな」


「そうだよ」


そして、陽翔はコーヒーを一口啜ってから、にやっと笑った。


「ま、俺は“交際0日婚”でスタートしたから、悠真たちよりバタバタだったけどな」


「うわ、それ思い出すとちょっと元気出てきたかも」


ふたりは、少しだけ笑い合った。


「名前、決めた?」


「まだ……悩んでて。男の子か女の子かも分からないし。でも、どっちでも大事に育てたい。……真希さんに、ちゃんと笑ってもらえるように」


「それがあれば十分だよ」


陽翔は、最後に一言だけ、優しく言った。


「大丈夫。お前は、ちゃんと父親になれる」


◆【夜。帰宅後】


その夜、真希は、ソファで毛布にくるまりながら静かに話した。


「今日ね、結衣さんに会ってきたの。……優しくて、泣きそうになった」


「俺も、陽翔に会った。すごく真っ直ぐだった」


ふたりは、目を合わせ、手を取り合う。


「……私、あなたがいてくれて、良かった」


「俺こそ。……守るよ、全部」


静かに、そして深く――

ふたりは、その手を、これから生まれてくる命へと繋いでいった。



◆【柳瀬部長との“信頼の約束”】


「春日井課長、体調の件……無理だけは、しないように」


その日の午後、部長室に呼ばれた真希は、柳瀬貴文部長の前で深く頭を下げた。


「ご迷惑をおかけして、申し訳ありません……」


「いや、謝られることじゃない。君は君のペースでやればいい。……それに、もう知っている」


柳瀬は、机に肘をつき、真剣な眼差しで言った。


「君の身体に、新しい命が宿っていることを」


真希は、目を見開く。が、すぐに何かを悟ったように静かに頷いた。


「悠真くんが……少しだけ、話してくれた」


「……あの子は、真っ直ぐで、優しくて。あの子と家族になるって決めたとき、私の人生は――変わりました」


柳瀬は小さく笑って、コーヒーに口をつけた。


「報告ありがとう。誰にも言わない。……君たちが望む形で、未来を選べばいい」


その言葉は、まるで穏やかな陽だまりのようだった。

真希は、その場で涙がこぼれないように、そっと手を握りしめた。


◆【同期への告白】


午後遅く、悠真は応接室に村瀬翼を呼び出した。


「……なんか、真面目な顔してるじゃん。どうかした?」


「……実はさ、真希さんのお腹に、赤ちゃんができたんだ」


翼は一瞬言葉を失った。


「……まじで?」


「うん。まだ、男の子か女の子かはわからない。でも……名前とか、どうしたらいいか分からなくて」


「……いやいや、それまず俺に言うか? でも……なんか、すげえな。悠真、パパになるのか」


「うん。まだ実感、全部はないけど……すごく、嬉しい。守りたいって思ったんだ」


翼は、ふっと口元をゆるめた。


「……真希課長、きっといいお母さんになるよ。あんたを選んだ人だもんな」


◆【進藤あかり、赤井美波にも】


その後、会議後のオフィスで、静かに残った3人――悠真、進藤あかり、赤井美波。


「……俺からも話しておきたいことがあるんだ」


悠真は少し深呼吸してから言った。


「春日井課長、妊娠したんだ。……俺の子ども」


一瞬、沈黙が流れる。


しかし、先に口を開いたのは赤井だった。


「……それ、ちゃんと真希さんも納得のうえで?」


「もちろん」


「なら、応援するよ。……妊娠って、すごく大変なんだよ。特に仕事しながらは」


続いてあかりも、わずかに目を潤ませながら言った。


「……おめでとう。悠真くん、本当に真希さんを大切にしてるんだね」


「ありがとう……ありがとう、本当に」


3人の前で、悠真は、何度も頭を下げた。

その手は、もう父になる覚悟に満ちていた。


◆【夜。ふたりきりの部屋で】


帰宅後。


真希はベッドにもたれながら、悠真にそっと言った。


「……あなた、翼くんたちに話したのね」


「うん。俺ひとりじゃ背負いきれないから……でも、みんな真剣に受け止めてくれたよ」


「……よかった」


「名前、どうしようか」


「まだ性別も分からないのに、気が早いわね」


ふたりは小さく笑った。


「でも、なんだろう。未来の話をすると、ちょっと怖さが消えるんだ。……楽しみって、思える」


「……それは、きっと一緒にいるからよ。あなたと、だから」


静かに、手を重ねる。


あたたかさと、命の重みと、未来の実感――

そのすべてが、今、ふたりを包んでいた。



最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

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